「夜、今日ご飯食べて帰らない?」

『ごめん、今日は駄目!』



食事を誘ってくれた友人に謝り、本屋へと急ぐ。
今日は待ちに待ったBLEACHの新刊の発売日。



『破面篇ももう終わりかー』



独り言を言いながら誰も居ないアパートへと帰る。
手には一冊の漫画。
帰ってからゆっくり読もうと考えるだけで頬が緩む。



『ただいまー……って、返事があるわけないか』



暗い部屋の明かりを付けて、コンビニで買った夕食と漫画をテーブルに置く。
行儀が悪いとはわかっていながらも、右手に箸、左手に漫画という人には見られたくない格好でくつろぐ。
読み終わった漫画を閉じると、なぜか涙が流れてきた。



『ギン、死んじゃったのかなー』



何故漫画の世界の人に感情移入しているのだと自分をおかしく思いながらも、涙は止まらなくて。
箸を置いて右手を見れば、何かが足りない気がして。
それが何なのかわからないけれど、私は大切な何かを忘れている気がする。
ありきたりではあるけれど、心にぽっかりと穴が開いたような、そんな気分だ。

コトリと音がして、棚に目をやる。
そして床を見れば棚の上に置いてあった指輪が落ちていた。



『ったく、何で思いだせねえんだよ……』



どこで買ったのか、はたまた誰かに貰ったのか。
生憎アクセサリーを送ってくれるような相手がいた記憶はないので、きっと自分で買ったものなのだろう。
床に落ちたそれを拾いあげれば、キラリと光ったような気がした。
それをぎゅっと握りしめると、誰だかわからないけれど大切だったはずの人の呼ぶ声がした。



「あのー白サンに黒サン、辛気臭いんでそろそろ立ち直っちゃあもらえませんかね」

「うるせえ下駄野郎」

「黙れロリコン」



浦原商店の一室、持ち主を失った斬魄刀の落ち込み様に店主である浦原は頭を抱えていた。
はあと溜息を吐くと、二人の前に腰を下ろす。



「そんなに落ち込むんなら、どうして帰しちゃったんスか…」

「仕方ねえだろ、アイツの大事な奴の願いを叶えるにはこれが一番なんだよ」



吐き捨てるように言った白と呼ばれるその男は、言葉とは裏腹に後悔の色をその顔に滲ませていた。
もう何度目かわからない溜息を吐いた浦原は、立ちあがって部屋を後にした。



「全く、いきなり夜サンがいなくなって尸魂界も大騒ぎだというのに、本人は呑気なもんですねえ」



また別の部屋に入った浦原は、大きなモニターに映る姿を見て、また溜息を吐いた。



「まあ、呑気というのは語弊がありますね」



本人は気づいていないだろうが、白と呼ばれる男の言った大事な人からの贈り物であるそれを握りしめて涙を流す姿。
スイッチを押して画面が消え、真っ暗になった部屋には月の明かりだけが差し込んでいた。



「いずれまた、会う時が来るといいですね」



部屋を後にした浦原は、あの斬魄刀達をどう慰めればよいものか、頭を抱えていた。



END


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