訪れた地下の勉強部屋は、思った以上に広かった。



「そうだ!修行を始める前に夜サンにお願いがあるんっスけどいいですか?」



浦原さんのお願いって、嫌な予感しかしないんだけど…



『なんでしょうか?』

「あの…アタシの事、喜助って呼んでもらえないでしょうか?」

『…は?』



一体何を言ってるんだこの人は?
お願いってこのことか?



「ホラ!だってしばらく一緒に住むわけじゃないっスか?浦原サンだなんて他人行儀じゃ喜助悲しいっス…」

オヨヨ…と泣きまねをする浦原さん。
仕方が無いな。



『ほら、喜助さん!泣きまねなんてしないでください!』

「あ、あとその言葉遣いも無理しなくていいっスよ。夜さんはそのまんまで十分っスから」



なんだよ…やっぱりバレてたのかよ。



『…じゃあ、素でいくよ喜助さん!』



こうして私と喜助さんの修行が始まった。
そして、一時間後…


「ハァ…ハァ…夜サン、貴女本当に斬魄刀を手に入れたの昨晩っスか?ついでに闘ったのもこれが初めてなんっスよね?」

『そうだけど?意外と体って動くもんだな。喜助さんは手加減してくれてたみたいだけど』



喜助さんが本気で戦っていないことには気づいていた。
それでも、少し疲れてきていたことにも気づいていた。
そんな喜助さんの様子に気づきながらも、私は気づかないふりをしていた。
私はもっと強くなりたい。
月光華の言っていた内なる虚にも会いたいし、何よりこの世界に来たからには私にはやらなきゃいけないことがあるんだ。



『喜助さん!転神体使わせてくれ!』

「転神体ってまさか…!」

『卍解の修行すんだよ』

「でも、貴女はついさっき始解を初めてしたんですよ?それなのにいきなり卍解だなんて、無茶はやめてください!それに、あれはまだアタシ以外には使ったことがないんです。もし何かあったら…」

「その心配はいらねーよ」



突如、響いた声。
その聞き覚えのある声に口角が上がるのがわかった。



『あーやっぱ転神体必要ねえみたい。な、月光華?』



私たちの目の前に現れたのは銀色の髪を持つ、そう…



『月光華。なんだよ、具象化できるんならさっさと出て来いよ』

「うるせーよ、こっちは主の力がどんだけのもんか見たかっただけだよ!」



めんどくさそうに月光華は言った。
そして、月光華は喜助さんのほうを向いて続ける。



「喜助っていったな?心配しなくても夜は強えーよ。実を言うと、こいつはもう卍解も出来る」

「は!?始解を修得して一日…いやたったの一時間で卍解に至ったなんて話、聞いたことないっスよ!?」



あまりの出来事に驚きを隠せない様子の喜助さん。
私もまさか卍解まで出来るとは思っていなかったので、びっくりして月光華のほうを見る。


「いや、正確には俺の名を聞き取れた時点で始解も卍解も修得してんだ。俺たちは夜を守るために存在するんだからな。いちいち屈服させられる必要はねーよ」



俺達と言う言葉に反応する喜助さん。
わざと私が言わなかったのに、何余計なこと言ってくれてるんだか。



『ちょっと月光華!てめえなに余計なこと言ってんだよ!』



あわてて月光華は弁解しようとするが、言ってしまったものは取り返しがつかない。



「いや、悪ぃ…ちょっと口が滑っちまって…」



―バキッ!ドカァ!



『知られちまったモンはしかたねーな。喜助さん、私の中には内なる虚が居る。でも、今の月光華の話だと別に悪い奴でもないらしい。ちょっと卍解してみてもいい?』

「い…いいっスよ。結界張りますから、ちょいと待ってて下さい」


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