『黒!どうだった?』



黒の顔を嬉々とした表情で見る夜。
しかし、黒は言いにくそうな顔をしている。



「その現物がないからすぐにはわかんねえってさ」

『そっか…』



肩を落とす夜。
その様子に慌てた黒はフォローする。



「で、でもそれが使えるかもしれねえんだし、心配することねえって!なぁ狐?」

「…狐やない言うてるやろ。でも夜、黒の言うとおりや。ひょっこりウルキオラが現れるかもしれへんやろ?」



ギンに頭を撫でられ、夜は静かに頷いた。
黒はその様子を複雑な表情で見ている。
喜助に言われたこと、それは“髪紐が使えないということは夜には知らせるな”だった。
夜は藍染を敵だとはみなしていない。
しかし、このことを知ったら夜は苦しむだろう、そう思ってのことだった。



『早くウルキオラ気づいてくれないかな…』

「ボクはこのままでもかまわへんのやけどな」

「てめえは良くても俺が困るんだよ!」



今日も楽しそうなこの三人の生活は一体いつまで続くのだろうか。



―虚圏



「……煩い」



二週間ほど前からウルキオラの頭を悩ませているもの。
それは、自宮の庭に浮かぶ門だった。
その門は夜の持つ髪紐に反応する。
夜がその髪紐に虚圏に行きたいと願えば、ウルキオラに知らせが来るようになっている。
…けたたましいアラーム音とともに。



「壊してしまおうか…」



何度そう思ったことか。
一週間ほど前から幾度となく鳴り続けるその音に、ウルキオラは嫌気が差していた。
かといって、この門を壊してしまえば藍染に怒られるに違いない。
どうしたものかと悩んでいると、藍染から呼ばれた。



「失礼します」

「来たね。今、終わるところだ」



ウルキオラの目の前に現れたのは一体の破面。
名を問うと、ワンダーワイスと名乗った。
満足そうな笑みを浮かべる藍染はウルキオラのほうを向いた。



「ウルキオラ、予定より少し早いがあの指令を実行に移してくれ。そろそろ君も耐えられなくなってきた頃だろう」

「…了解しました」

「“彼女たち”のことも迎えに行ってくれ」

「…はい」



踵を返し、自宮へと戻るウルキオラ。
彼の顔にはやっとあの苦痛から解放されるという安堵の色が浮かんでいた。



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