元居た世界へと戻ってきて一週間、夜たちは向こうの世界へ戻る方法を見つけられずにいた。 『ったく、どうやったら戻れるんだよ…』 「まあまあ、そないに悩まんでもええやんか。ボク、こっちの生活も嫌いやないで?」 夜は普段通りに学校へと行き、バイトにも行っている。 一方のギンは夜が居ない間は家で家事をしている。 「なんや、こういうの“専業主夫”いうんやろ?」 『なんでそんな言葉知ってんだよ…』 「テレビで見たんよ」 すっかり主夫になっているギンに夜は溜息を零す。 黒はというと、此方の世界には元々の本体である刀がないので、ずっと実体化したままだ。 どうやらギンだけではなく黒も普通の人間に見えるらしく、ギンとともに留守を預かっている。 「毎日毎日この狐と一緒だなんて、もうそろそろ俺耐えられねえわ…」 「狐やなくてギンや言うてるやろ?」 『二人とも!』 …なんだかんだで楽しい毎日を過ごしているようだ。 「狐、お前が居なくなって今頃虚圏は大変なんじゃねえのか?」 思いついたように黒がギンに問う。 「あァ、あっちなら大丈夫やと思うよ。藍染さんのことやし、また僕がどっかでサボってるとでも思うとるやろ」 『藍染さんって可哀想……あっ!あっちの世界に戻る方法あるじゃん!』 「「あんのか(あるん)!?」」 黒は顔を輝かせ、ギンは何処か複雑な表情をしている。 夜は髪を縛っていた紐を解くと二人の前に差し出した。 「それ…」 『黒は知ってるだろ?これは藍染さんからもらったもんだ。これを使えば虚圏に行けるって』 「でも、それどうやって使うん?」 『問題はそれなんだよな…』 夜は以前これを使った時のことを思い出す。 あの時は事前にギンに連絡したからだろうか、髪紐を握るとすぐにウルキオラがやってきたのだ。 『もしかして、これってウルキオラと繋がってる!?』 「はァ!?なしてウルキオラと繋がってんのや!」 『だって、前に迎えに来たのはウルキオラだったし、それになんとなく…なんとなくだけどそんな気がする』 しかし、髪紐は何の変化も見せない。 夜は仕方がないので月光華と連絡を取ることにした。 『黒、お願い』 ―現世、浦原商店 「浦原、アイツからだ」 「黒サンっスね!」 居間でお茶を飲んでいた二人…月光華と喜助は黒からの通信を受け取った。 「ちょっと待ってくださいね。すぐに準備しますから」 部屋の奥へと消えた喜助が持ってきたのは、何やら大きな装置のようなもの。 月光華はそれに手を触れると、頭に響く黒の声に応える。 「どうした?」 「白、喜べ!そっちに戻る手がかりを見つけた!」 「手がかりっスか!?」 「ん?なんで浦原の声が聞こえんだ?」 「俺の聞いているお前の声がスピーカーを通して浦原にも聞こえてる。こっちの声もマイクを通せばお前に聞こえるらしい」 「…よくわかんねえけどまあいいや、髪紐だ。藍染からもらったやつ」 そういえばそんなものを貰っていたなと思いつつ、月光華は喜助にその髪紐について説明する。 喜助は何か考えるような素振りを見せていたが、すぐにはっきりと言った。 「残念ですが…恐らくそれは使えません」 「「使えねえだと!?」」 「はい。月光華サンも覚えているでしょう?あの時アタシたちの話を聞いていた人がいること。恐らく、藍染はその髪紐を使えなくしているんじゃないでしょうか」 喜助の言葉に肩を落とす月光華と”黒”。 せっかく戻る手がかりを見つけたと思ったのに、無理もない。 「でも、方法がなくなったわけではありません。アタシももうちょっと調べてみますね。それから…」 後に続いた喜助の言葉に、黒は小さく頷いた。 ←→ back |