「あ!あの人コスプレでもしてるのかな?すごーい!市丸ギンそっくり!」



ギン!?
驚いて後ろに居る友人のほうを向くと、ちょうど人だかりの中心に居る人物が目に入った。



『は!?コスプレっていうかあれ…』

「あ!夜ーーーーー!」



その人物もこちらに気づき、手を振ってきた。



『嘘…だろ!?』



夜に手を振ってこちらに走ってきた人物は、紛れもなくあちらの世界の市丸ギンで。
着ている服も虚圏のものと同じだった。



『何でここに…』

「ボクかてようわからんのや。気づいたら現世に居って、ふらふら歩きよったらなんや女の子に囲まれてもうて。珍しいなァボクのこと見える子がこないに居るやなんて」



いつものようにへらへらと笑うギンに、夜は苦笑する。
どうしたものかと頭を悩ませていると、一緒に居た友人が不思議そうな顔で尋ねてきた。



「夜、この人と知り合い?ホント、市丸ギンそっくりだね!それに現世とか言ってるし、まるで本当に漫画の中から出てきたみたい!」

「お姉さん夜の知り合い?ボクは市丸ギンのそっくりさんやなくて…」

『そ、そうだろ!?コスのために髪まで色抜いちゃって、もうそっくりなんだよ!そうだ、今日用事思い出したからもう帰るわ!じゃ、また!』



このままここに居るのは危険だ。
そう判断して、夜はギンの手を引いて急いで学校を出た。



「夜、コスプレってどういうこと?ボクは正真正銘市丸ギンやで?」

『いいから!とりあえず私の家に来て!』

「家って、ボク浦原サンのとこに行くのいやや!」



ぎゃあぎゃあと喚くギンを無視し、夜は自らの家へと急いだ。



「夜浦原サンのとこにお世話になってたんと違うんや。これならボクがいつ来ても安心やなァ〜」



夜の家に着くと、ギンは辺りをきょろきょろと見回しながら嬉しそうにしている。
夜はギンをソファに座らせると、コーヒーを差し出した。



『ギン、今私たちがいるのは現世じゃない』

「は?此処は現世やろ?」

『えっと…現世は現世だけど、元私がいた世界ってこと』



夜に告げられた言葉に首を傾げるギン。
しばらく考え込んでいたが、漸く意味がわかったのか顔を上げる。



「それって、ボクらが物語になってる世界いうこと!?」

『ああ』

「なしてこっちの世界に来たん!?夜だけならまだしも、ボクまで…」

『私だってわかんねえよ!』



思わず声を荒げてしまった夜にギンは静かになる。
そんなギンを見て、夜は小さく溜息をつく。



『悪い…ギンに言ったところでどうしようもねえのにな』

「仕方ないやろ。そんなら普通の人にボクが見えるのもわかるし、何より此処に来てから他の死神の霊圧も虚の気配も何も感じんようになったし…」



黙り込んでしまった夜の様子を見て、ギンは突然立ち上がった。



「せや!せっかくこっちの世界に来たんやし、ボク散歩でもしてくるわ!夜も行こ?」

『散歩?そんな悠長なことやってられるかよ!』

「そないなこと言っても、どうしようもないんやし。ほな、行くで」



ギンは手を取り夜を立ち上がらせ、部屋を出て行こうとする。



『わかった!わかったから服は着替えろ!』

「え?服?」



夜に言われて自らの着ている服を見る。
真っ白な衣装。
確かに、この世界では浮きそうだ。



『また“市丸ギン”がいるって騒がれたら面倒だからな』

「せやね。ボクかてコスプレや言われるのは気分良くないし…」



先ほどのことを思い出して苦笑する。
ただでさえ背の高い銀髪の男など目立つのに、さらに目立つような服装をしていては面倒だ。
夜は服を探してくるといって部屋の奥へと向かった。



『ギンは背高いからちょっと小さいかもしれねえけど、しばらくこれで我慢して』



夜が持ってきたのは男物のロングカーディガンと長めのパンツ。
一人暮らしの夜の家の中でギンが着れそうなものはこれだけだったのだ。



「ちょっと小さいけど、さっきよりはマシやな」



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