『これは…一体何が起こったんだよ!?』



状況が理解できず、壁に八つ当たりをする。
しかしそんなことをしてもこの状況が変わるはずもなく、手に鈍い痛みが残るだけだった。



『くそっ…何でよりにもよってこんな時に…早く、早くあっちに戻んねえと…』



何か方法はないかと考えを巡らせるが、そもそもどうやって自分が物語の世界に行ったのかがわからない以上、夜にはどうしようにもなかった。
その時、ベッドに投げ捨てた携帯が鳴る。
画面を見ると、表示されているのは大学の友人の名前だった。



『もしもし?』



気乗りしないながらも通話ボタンを押した夜の耳に飛び込んできたのは、いつもと変わりない友人の声。



「夜!何やってんの!?次の授業もう休めないんでしょ!」



彼女の言う“次の授業”とは、夜が大学で受けている講義のことだ。
これ以上休めば単位が取れないらしい。
もう何年も昔のことのようだと思いながらも、夜はすぐに行くと返事をして携帯を閉じる。



『授業なんて受けてる場合じゃねえのに…』



”いつもと同じように”学校へ行く準備をして、重い足どりで部屋を出た。



「夜!」



学校に着いて講義室に入ると、後ろのほうの席で小さく手を振る友人が見えた。
夜は小さく手を振り返すと、友人の元へ行き席に座る。



「もう、今度休んだらヤバいって自分で言ったくせに!」

『ごめん、そんな昔のこと覚えてないし』

「昔って、一週間前のことでしょ!?」



そうか、自分が向こうで過ごしてきたであろう時間はこちらの世界にとってはたった一晩の出来事だったのかと改めて思う。



『いいや、こっちの話』



変なのという友人を他所に、夜は必死に向こうの世界に行く手立てを考える。
講義の内容など頭に入るはずもなく、気がつけば終了を知らせる鐘が鳴っていた。



「お昼行こ!」



友人に連れられて校内の食堂へと向かう。
と、その途中で人だかりが目に入った。



「何あれ、有名人でも来てるのかなあ?」

『さあ?ほら、学食行くんでしょ』



人だかりが気になる様子の友人を置いて、学食へ向かおうとする夜。
その時、友人が声をあげた。



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