一護たちが現世へと戻って数日が経った。 相変わらず瀞霊廷は騒がしい。 「夜ー!飲みに行くわよ!今日は吉良も一緒よ!」 『乱菊さん…イヅルは忙しいんじゃねえの?』 また無理やり誘ったのだろう、相変わらずな乱菊に夜は呆れる。 イヅルが乱菊に謝りに行ってからというもの、こうして三人で飲むことが多くなった。 この三人が集まると話す話題は決まって… 「ほんと、市丸たいちょおは酷いですよお〜副官の僕を置いてくなんて!」 「そうよそうよ!あの狐、本当は目見えてないんじゃないの〜?」 「「夜(さん)もそう思うでしょ!?」」 『はいはい、二人ともわかったから…』 「「わかってなあ〜い!」」 だいたい自分はなんなのよ、ギンの彼女だったくせに! と騒ぎ続ける乱菊とイヅル。 『だから、別に彼女とかじゃねえんだけど…』 夜の言葉は酔った二人には聞こえていないようだ。 「じゃあ夜!吉良のこと頼んだわよ!」 乱菊はいつものごとくイヅルを夜に押し付けて帰っていく。 『ったく、何で私が…』 文句を言いながらも、夜はイヅルを部屋へと送っていく。 「市丸隊長…」 『寝言?こんなにアンタのことを思ってる副官を置いていくなんて、ギンも酷いよなあ…』 「ん…朝?」 『おはよー、イヅル』 「夜さん!?なんで此処に!?」 『なんでって、此処私の家だし』 乱菊が帰った後、イヅルを部屋に送り届けようとした夜だったが、いざ部屋に着くと鍵を開けられないことに気づき、仕方なくイヅルを自分の家に連れてきたのだ。 「す、すみません!」 床に着きそうなほどに深く頭を下げるイヅル。 『別に気にすんなって。ギンなんか勝手に上がりこんでたし』 そう言って食器棚に対に並ぶ食器を指す。 「あれは…市丸隊長が?」 『ああ、ギンが勝手に置いてった』 全く勝手な奴だよなあ…と笑う夜。 イヅルはそれを複雑な顔で見つめる。 「夜さんは…本当に市丸隊長とお付き合いしていたわけではなかったんですか?」 『何度も言ってるだろ、ギンと私は何でもねえよ。それに、もし私がギンの恋人だったら置いていかれるわけねえだろーが』 ギンって束縛しそうだし、と言う夜に思わずイヅルは笑う。 「確かにそうですね。隊長なら夜さんを連れて行くでしょうね」 だろ?と二人で笑いあう。 『束縛…か…』 イヅルが帰った後、ギンに渡された指輪を見つめる夜。 その時だった。 指輪が微かに光ったような気がした。 「夜聞こえとる?」 突然指輪から声が聞こえた。 『ギン!?』 「せや、ボクや。良かった、ちゃんと聞こえるんやねこれ」 連絡手段だとは聞いていたが、まさかこんなにも早くギンから連絡があるとは… 「なしたん?そないにボクの声聞けて嬉しいん?」 『馬鹿っ違えよ!いきなり連絡してくんな!』 「ええやん、夜の声聞きたかってん。怪我はもう治った?」 あの時のか…と、夜はもう消えた腹の傷跡をなぞる。 『治った。後も残ってない』 「さよか。よかった、夜に傷が残らんで…」 声しか聞こえないけれど、ギンの安心している様子が伝わってくる。 「イヅルは…元気?」 『ああ。最近乱菊さんと仲がいいみたいで、私もよく飲みに連れて行かれる』 「乱菊か…。アイツにも悪いことしたなァ」 『ギン、そっちはどうなんだよ?』 虚圏でギンたちがどんな生活をしているのか、夜は気になっていた。 「こっちか?暇で暇でしゃあないわ。なあんもすることあらへん」 本当に暇なんだな、と苦笑する夜。 「ボク、夜に会いたいわァ…」 ぽつりと呟くように言ったギンの言葉に、夜は何も返せなかった。 「堪忍な…。ほな、もう行くわ」 ぷつり、と通信の切れる音がした。 『私もそろそろ行かなきゃな…』 ← back |