藍染たちが虚圏へと行ってから数日が経った。
夜の傷はすぐに塞がり…とはいっても、たいしたものではなかったらしい。
卯ノ花によると、ギンの刀の先には麻酔薬が仕込まれていたようだということだった。
とにかく、夜はすぐに復帰することができた。



『イヅル、この書類は五番隊ね』

「はい!」



夜は隊長が抜けた隊のサポートをしていた。
実際は三番隊のみであるが。
五番隊は隣隊の白哉がほとんどの業務をこなしているし、九番隊は元々目の見えない隊長の代わりに修兵が多くの業務をこなしていたため、そこまで支障が出ることはなかった。
もっとも、三番隊も今までイヅルが一人で切り盛りしていたようなものなのでそこまで心配はいらなかったのだが…



『問題は心、か…』



夜はギンに渡された指輪を眺める。



『ギン…イヅルが心配なら置いていくなよ…』



一人呟いた夜の言葉は誰の耳に届くこともなかった。
ギンの心配していた通り、イヅルは精神的に参っていた。
表には出さないものの、この数日で明らかにやつれている。



『イヅル、ちょっとおいで!』

「なんですか、夜さん?」

『お前、まだ乱菊さんのとこに謝りに行ってないだろ?』



気まずそうな顔をするイヅル。
夜はそんなイヅルの頭をぽんっと叩いて笑う。



『どうせ、乱菊さんには傷一つ付けられなかったんだろ?早いとこ謝っとけ』

「…はい」



夜に言われて渋々隊首室を出て行こうとするイヅル。
ふと思い出し、夜はイヅルを呼び止める。



『そうだ、手紙ありがとな』

「手紙ですか?」

『藍染さんからの…』



イヅルはあぁ…と納得したような表情を見せる。



「あれは市丸…隊長から渡されたんです。自分に何かあったら夜さんに渡してくれと。それに…」



お礼なら朽木隊長に言ってください。あの後、錯乱していた僕に手紙の存在を思い出させてくれたのですから。朽木隊長も市丸隊長に何か言われていたみたいですよ?
イヅルはそう言うと十番隊へと向かっていった。



『白哉が?』



あの白哉がギンに頼まれごとなんて珍しい…
そう不思議に思う夜だった。
そして、一護たちが現世へ戻る日。
夜も見送りに穿界門の前へと来ていた。



『一護、元気でな』

「夜もな!」

『またすぐに会うことになるけどな…』

「何か言ったか?」

『いいや。そうだ、これを喜助さんに渡しといて』



夜は一護に一枚の紙を渡した。



「なんて書いてんだ?」



―Je reviens tout de suite.



『さあな。雨竜にでも聞けばわかるんじゃねえの?』



一護は雨竜に紙を見せる。



「フランス語か。なんとなく意味はわかるよ、ふふ」

「なんだよ石田!自分だけわかってんじゃねえよ!」



何が書いてあるんだ!?と問い詰める一護を無視して雨竜は笑う。



「君にもわかるよ。そのうちに、ね」

『じゃ、頼んだからな!』



こうして一護たちは現世へと戻っていった。


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