しばらく考え込んでいた喜助。
どれくらいの時間が経っただろうか…喜助がおもむろに顔を上げる。



「止めても聞かないっスよね?」

『…ごめんなさい』



出来ることなら、喜助さんのところで平和に暮らしたい。
でも、これから起こることを知っている夜には、その出来事を黙って見ているなどできるはずもなかった。
自分がなぜいきなりこの世界に来てしまったのかはわからないが、今ここに居て幸いにも力があるのだから、できることはやってみたい、そう思っていた。



「わかりました。でも、一つだけ条件があります」

『何?』

「必ず此処に戻ってくると約束してください。たった数日間でしたけど、楽しかったんです。それにアタシは貴女が尸魂界に行って無理をするんじゃないかと心配で…」

『ありがとう、喜助さん。必ず戻ってくる。自由に動けるようだったら、毎週でも戻ってくるから』



夜は、ほんの数日前に初めて会った自分のことを心配してくれる喜助を嬉しく思った。
そして、この世界にやってきて、たどり着いたのが此処でよかった…心からそう思っていた。



「あっ、あと行く前にもう一人、ちゃんと話しておかないといけない人がいますよね?後から文句を言われるのはアタシっスから…」

『…真子?』



すっかり忘れていたが、真子に出会わなければ浦原商店に辿り着くこともなかったのだ。



「そうっスよ!平子サンに連絡しますから、ちょっと待ってて下さいね」



そう言って、喜助は電話をとった。
真子は思いのほかすぐにやってきた。



「よォ夜、話ってなんや?喜助になんかされたんかァ?」



笑いながら言う真子。
尸魂界に行くということは、真子の嫌いな死神に会いに行くということ。
あそこにはまだ真子たちの運命を捻じ曲げた人もいる。
夜は複雑な気持ちだった。



『真子…話っていうのは…』



夜は、自分に死神の力があること。真子たちと同じように虚化できること。そして…尸魂界に行くことを告げた。



「なんや、たった数日でえらいことになっとるなァ」



へらへらと笑いながら言う真子だったが、その表情はどこか悲しそうだった。



「で、なんや、オレにお別れの挨拶ちゅうことか?」

『いや…別にそういうわけじゃねーけど、次いつ会えるかわかんねーし、真子には助けられたし…』

「アホか、オマエ?」



ア…ホ…?
きょとんとしている夜を見て、真子は笑いながら続けた。



「アホやからアホやゆーてんや。夜は元々こちの世界の人間やない。どこに行こうとオマエの自由や、それに…」

『それに?』

「別にもう会えへんっちゅうわけでもないんやろ?」



確かに、物語には真子たちも関わってくる。きっとまた会うだろう。



「それならええやないの。俺らと夜が死なんやったらええだけや。ただ、尸魂界は危険なとこや…オマエもわかっとるやろうけどな」

『うん…でも何とかする。いや、なんとかしなくちゃいけねえんだよ』



夜は吹っ切れたような気がした。恐らく、また現世に戻ってくることになるだろう。その時までにもっともっと強くならなくては…そう決意した。
そして夜はすぐに出発の準備をした。
少し休んでから行けばいいのに…と喜助は言ってくれたが、決意が鈍りそうなのですぐに発つことにした。



「一人で行かせるのは不安なんですが…全くなんでこんな時に夜一サンはいないんでしょうね…」

『大丈夫。向こうについたらとりあえず死神と接触できるようにやってみるしな』



確かに不安はあったが、漫画の世界の人物に会えるということもあって楽しみだという気持ちも夜には少なからずあった。



尸魂界では何が起こるのだろうか。
私はこの世界のために一体何ができるのだろうか。



夜は穿界門に足を踏み入れた。


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