違い 彼と私の違いは何だろうと考えてみる。 考えていたら何だか空しくなった。 違いなんてあり過ぎるほどにあって、共通点を見つけることのほうがずっと簡単だったから。 「月城」 「は、はい!」 突然話しかけられて、声が上ずってしまった。 先ほどまで寝ていた先生はいつの間にか起きていたようだ。 生徒会で保健係の仕事ができないと言っていた月子に代わって、私が今日は先生の手伝い。 願ってもない幸運だ。 「どうしたんだ?変な声上げて」 「先生がいきなり起きるからですよ」 「何だ、俺が起きてちゃいけないのか」 「そういうわけじゃありませんけど……」 お前らしくない。 そう言って頭を撫でてくる先生はやっぱり大人で、まだまだお子様の私なんかの手に届く存在じゃないことは当の昔に理解している。 そう、理解はしているんだけど。 「今日は夜久は居ないのか?」 「月子は生徒会で忙しいって言ってましたよ。で、私が代わりに」 先生が月子の名前を出すだけで胸が痛くなる。 彼女のことをそんな風に思っていないのは知っているし、彼女と先生が仲がいいのも知っている。 何より月子は私の大切な友達だ。 友達に嫉妬するなんて最悪。 「ま、月城が居てくれるならいいか」 ほら、たった一言でこんなにも嬉しくなる。 いつだったか錫也に言われた。 私の態度はわかりやすいんだと。 そして、想いは口にしないと伝わらない、とも。 何でわかったのかと問えば、彼はいつものように笑って「リカを見ていればわかる」と言った。 もしかして先生にも気付かれているんだろうか。 「何だ、顔が赤いぞ?」 「何でもないです!」 顔を覗き込んできた先生と目が合う。 近くで見る先生の顔もやっぱり綺麗で、思わず目を逸らしてしまう。 煩い胸の鼓動が先生に聞こえやしないかと思っていると、先生の手が私の額に伸びてくる。 「熱はないな……」 「大丈夫ですから!」 「念のため今日はもう帰れ、送ってやるから」 顔が赤い理由なんて言えないまま、先生に連れられて寮へと向かう。 日が沈みかけていて辺りが薄暗いのが幸いだ。 大丈夫、ちゃんと先生のほうを向いて話ができる。 「リカ」 突然先生が立ち止った。 初めて呼ばれた下の名前に、漸く治まりかけていた鼓動が再び煩くなる。 「俺は教師でお前は生徒だ」 「そ、そんなの当たり前じゃないですか」 きっと、私の気持ちがバレたんだと思った。 先生は教師として私に釘を刺そうとしているんだと思った。 続きを聞きたくなくて、唇を結んで俯いた。 「この前夜久に言われたんだ。恋をする資格のない人なんて居ないってな」 月子らしいと思った。 彼女も恋をしているから。 恋をしている彼女はいつも以上に輝いていて、私はそれを羨ましいと思っていた。 私の恋は口にできないから。 口にしたらそこで終わってしまうから。 「リカ、俺はお前のことが好きだ」 時間が止まった。 夢を見ているんじゃないかと思った。 何度も夢に見た光景。 確かに今、私の身体には先生のぬくもりが伝わっている。 「星月、先生……?」 「悪いな、少しだけこのままで居させてくれないか?全部忘れてくれて構わないから……」 いつも飄々としている先生とは思えないほどの弱々しい声。 先生でも不安に思うことがあるんだと少し嬉しくなった。 「忘れませんよ、私も先生のことが好きですから」 驚いたような表情の先生と目が合うと、今度は目を逸らさずに笑えた。 空から降るいくつもの星が祝福してくれているような気がした。 END back |