不信

「……どうかな?」
「うん……の……」



五番隊隊首室。
戸の向こうで密かに聞き耳を立てている男がいた。
中に感じる霊圧は自分の良く知る五番隊隊長と、自分の部下。
親しげに話す様子が声だけで伺い知れて、胸騒ぎを覚える。
そっと足音を立てることもなく、男は部屋の前から立ち去った。



「どうするの?」
「構わないよ。何か聞かれたら友人だとでも言っておけばいい。事実、そうであることに変わりはないのだからね」
「相変わらず怖い人ね」
「君に言われたくないよ」



それもそうねと一言残して、女はその場を去った。
自隊へと戻ろうとしていると、その隊長に声をかけられた。



「泉水ちゃん、藍染隊長と仲ええの?」
「悪くはないですよ。友人ですから」
「藍染隊長と友達?」



きょとんとしている市丸を他所に、彼女は相変わらずの無表情で彼を見た。
いつも張り付けたような笑みを浮かべている彼とは対照的に、常に表情を崩さない彼女。



「私、九番隊の前は五番隊に居たんです。彼とはその時からの付き合いで」
「そうなん?ボクが入った時も居った?」
「ええ。ちょうどその頃は現世任務が多かったのであまりお見かけしたことはございませんでしたが」



少し考えるような素振りをする市丸。
確かに言われてみれば彼女のような隊士が居たような気がしないでもない。
けれども、入隊当時は自分のことに精一杯で周りに目を配る余裕がなかったのも事実。



「藍染隊長の友達やなんて、初めて聞いたかもしれんなあ」
「そうですね、彼は誰にでも平等に接する人ですから」
「せやったら、泉水ちゃんは違うの?」
「どうでしょう。本人にでも聞いてみて下さい」



これ以上聞かれることを面倒に思ったのか、彼女は市丸に一礼すると五番隊へと瞬歩を使って向かった。
一人残された彼は一つの疑問にぶち当たっていた。



「藍染隊長の友達いうんなら、あの人の本当の顔も知っててんやろか……」



その答えを得るべく彼が向かったのは、当の本人の元で。
隊首室の戸を開けば机に向かっている後ろ姿が目に入った。



「珍しいじゃないか。君から僕を訪ねて来るなんて」
「藍染隊長、ウチの隊の東月いう子知ってますよね」
「泉水のことかい?彼女は私の友人だよ」



まるであらかじめ用意されていたかのような台詞を吐く目の前の人。
市丸は不信感を募らせた。



「あの事も知ってはりますの?」
「まさか。彼女はあくまで友人だよ、五番隊隊長藍染惣右介のね」



他所行きの笑みを浮かべる元上司を前に、これ以上何を聞いても自分の求める答えが返ってこないことを悟った市丸は自らもまた笑みを浮かべて返答した。



「さよですか。ほんならええんです」
「何か気になることでもあったのかい?」
「泉水ちゃん、席次に見合わんくらいの実力を持ってるみたいなんで、ちょっと気になっただけですよ」
「そうか」



二人は何かを隠している。
証拠があるわけではないけれど、勘というのだろうか。
彼の胸はざわついていた。


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