届かない想い

現世での任務にも漸く慣れてきた頃、彼女は尸魂界へと連絡をするべく伝令神機の電源を入れた。
半年に一回の報告の他はあちらに連絡することもなく、また、初めの頃は市丸から度々連絡が来ていたのでその電源を切ったままにしていたのだ。



「三番隊の東月です。次の行き先を教えていただけますか」



技術開発局へと連絡をする。
応答したのは彼女の良く知る者だった。
その人物は酷く不機嫌な様子で機械越しに溜息を吐いた。



「泉水さん、なんで今まで電源切ってたんスか。こっちは大変だったっていうのに」
「阿近?何かあったの?」



何かあったなんてモンじゃない。
阿近は彼女にこの半年で尸魂界に起きた出来事を話した。
同時に、すぐに戻って来いと。
通信を切った後、彼女はその場に座り込んだ。
とうとうその時が来てしまったのだと。



「一度くらい帰ればよかったかな……」



尸魂界へと戻った彼女は、真っ先に自らの隊へと向かった。
隊首室に居るのは副隊長の吉良のみで、市丸の姿はない。
それもそのはず、彼は数カ月前に護廷を裏切って虚圏へ行き、そしてつい先日この世から消えたのだ。



「東月さん、おかえりなさい」
「ただいま戻りました。何も知らずに申し訳ありません」



いいんだ、君に連絡がつかなかったのは市丸隊長の所為でもあるからね。
力なく笑う副隊長に、彼女は顔を顰めた。
聞けば、藍染は捕えられたのだという。
百年越しの想いは、今遂げられたというべきなのだろうか。
最も、彼女はどちらにも加担しておらず、いわば蚊帳の外だったのだが。



「びっくりしただろう?いつの間にか隊長が居なくなっていたんだから」
「ええ……」



もやもやと心の中に霧がかかっているような感覚。
気が付けば彼女は隊首室を出て走り出していた。
荒くなる息を気にかけることもなく、ただひたすらに走り続けた。
そうしてどこまで来たのかはわからない。
けれども、目の前に広がる景色は酷く綺麗だった。



「市丸、ギン……」



もういないその人の名を呼べども、返事は返って来ない。
俯いた彼女の下に広がる大地には、点々と染みが広がっていった。
なんで、どうしてあんな人のことを想ってしまったのだろう。
こんなことになるならば、せめて自分の手で終わらせたかった。
目の前で消えゆくあの人を送りたかった。



「さよならくらい言えばよかった……」



百年を超える任務は終わりを告げた。
けれども、彼女の心は未だ晴れないまま。
市丸と過ごした日々だけが、彼女の心に強く刻みつけられていた。



END


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