偽りの真実

目の前に居る上司は酷く憤慨していた。
彼女はただ、その様子を眺めていた。



「なして?ボクに一言くらい言ってくれてもええやないの!」



自分三席やろ?隊長はボクなんよ?
先ほどから何度も繰り返されている台詞。
昨日、彼女を長期の現世任務に就かせる旨の辞令が正式に下った。
総隊長より直々に手渡された書状を上司に見せれば、思っていた以上の反応を返された。



「決定事項です。出立は明日、期間は未定です」
「急な話だね。そんなに長くならなければ僕だけでも業務はこなせるから、心配しなくていいよ」



戸惑いながらも快く送り出そうという心遣いの見える吉良とは反対に、市丸は認めないの一点張り。
少しでも目を離せば総隊長の元に行きそうなほどの勢いに、吉良は少々怯えている。
それでも彼女は初めてこの場に来た時のような無表情で、淡々と告げる。



「もし長期に渡るようであれば、三席には別の方を就けて下さい。私は降格でもかまいませんから」
「そないなことするわけないやないの!すぐにでも戻って来させるわ!」
「隊長、少し落ち着いて下さい。何も今生の別れというわけではありませんし……」



イヅルは黙っとき!
滅多に声を荒げることのない市丸の様子に、他の隊士達も何事かと隊首室の扉に耳を寄せる。
中から発せられているのは恐ろしいほどに尖った霊圧で、この部屋の中に居るであろう副隊長と三席の身を誰もが案じていた。



「ボクは認めへん!」
「我儘をおっしゃるのもいい加減にして下さい。これも仕事の内です」



これ以上此処に居ても埒があかない。
そう思った彼女は頭を下げると隊首室を後にした。
残された市丸は今しがた彼女が出て行った扉を眺めるばかりで、一言も発さなかった。



「これでいい、これ以上あの人の傍には居られない」



荷物をまとめた自室。
彼女は明日、尸魂界を発つ。
向かう先は現世、しばらくは移動しながらの生活になるであろう。
住み慣れた部屋を見渡せば、あまりにも殺風景。
そして翌日、彼女は現世へと向かった。
彼女がまず派遣された場所は空座町という街。
一つ溜息を吐くと、彼女は目的地へと足を向けた。



「浦原喜助さんはいらっしゃいますか?」



店先に居た男の子に声を掛けると、彼はすぐに店の中へと入りその人を呼んできた。
彼女の姿を目にしたその人は、一瞬表情を曇らせた。
そして彼女もまた、その人物と目を合わせられずにいた。



「お久しぶりっスね、泉水サン」
「ええ、久しぶりね」



喜助、と彼の名を口にした彼女は、ぎこちなくその顔に笑みを浮かべた。
店の中へと入った二人はテーブルを挟んで座る。
百年ぶりの再会だというのに、二人の間には沈黙が流れていた。



「今日は何でまた現世に?」



彼女が三番隊の三席になったという話は、異なる世界に住む彼の耳にも入っていた。
そんな人物がなぜ自分を訪ねてくるのか。
この百年間、自分の居場所は知っていたはずなのに一度も顔を見せなかった彼女が。



「長期の現世任務なの。とりあえず空座町に行けって言われたから、ついでに喜助の顔でも見ようかと思って」



元気だった?
そう問う彼女に、彼は微笑みで返した。
そして、彼女は恐らく知らないであろう事実を告げようと口を開いた。



「アタシだけじゃありませんよ」



彼女の目が大きく開かれた。
そして、奥から出て来たのはもう一人の懐かしい顔。



「鉄栽も居たのね」
「ご無沙汰しております、東月殿」
「ちなみに、まだまだ居るんですけどね」



夜一サンじゃありませんよ。
続けられた彼の言葉に、彼女は言葉を失った。
まさか、生きていただなんて。
そのことを知っていれば、自分はもっと早くに会いに来ていたのに。



「平子サン達も、生きています」



会いたいですか?
そう問うた彼の言葉に、彼女は小さく頷いた。


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