人形として

「君には三番隊に異動してもらうよ」
「わかりました」



九番隊隊首室。
隊長である東仙に異動を告げられて無表情で了承したのは東月泉水。
同隊の席官だ。



「突然ですまないね」
「いえ、どこの隊に行っても私の仕事はそう変わりませんから」



愛想笑いすら浮かべることなく長年仕えてきた上司に頭を下げた。
席官といういわば中間管理職にあっては、どの隊においてもそう任務の内容に変わりはない。
命令された通りに仕事をこなしていくだけ。



「市丸隊長、就任おめでとうございます。本日付で三番隊六席になりました東月泉水です、どうぞよろしくお願いいたします」
「泉水ちゃんかあ、よろしゅうな」



にっこりと笑う新しい上司を前にしても、彼女の表情は変わらない。
季節は春、彼女は新しい隊へと異動した。
新しい上司となった男―市丸ギンは人当たりの良い笑みを一瞬だけ崩した。
彼を前にこんな表情をする女は、二番隊の隊長くらいしか目にしたことがなかったから。



「何や。可愛くない子やな……」



それが市丸の彼女に対する第一印象で、それはきっと彼に限ったことではない。
大抵の人物が彼女に抱いている印象といえばそれくらいのものだ。
彼女に関する書類に目を通してみるも、特にこれといって目立った功績もなく、平々凡々な死神の一人といったところだろう。



「隊長、如何致しましたか?」
「いや、何でもないわ。仕事始めようか」



新しい副官の声に現実に戻された新米隊長は、めんどくさそうに仕事に取りかかった。
それからしばらく経つも、彼の彼女に対する印象は変わることはなかった。
三番隊の他の女性隊士は自分に媚びを売ろうと必死になっているのが見て取れる。
予想はしていたものの、いざそれが現実になると面倒極まりない。



「ギン、どうだい隊長職は」
「どうもこうもないですよ。思ったより面倒なんですね」



とある日、彼の元を訪れたのは最近まで彼の上司であった五番隊隊長藍染惣右介。
彼はかつての部下の変わらない様子に笑みを漏らした。



「副官は真面目すぎて面白ないですし、隊士は隊士でボクに媚び売ってくる子ばかりや。息苦しくてしゃあないですわ」
「そのうち慣れるよ」
「そうだとええんですけど」



似合わない溜息を吐く彼に苦笑いをしながら、藍染は自分の隊舎へと戻って行った。
三番隊隊舎を出ようかという時に藍染の元へとやってきたのは一人の女。
藍染は少しだけ口角を上げて彼女を見る。
彼女の表情は変わらない。



「どうだい?彼の様子は」
「知ってるんでしょ。見た通り、うんざりしてるみたい」
「彼らしいといえばらしいのかな」
「そうなんじゃない?」



周囲に人が居ないことを確認すると、彼女の肩にそっと手を回す。
彼女はそれを拒むことなく彼に寄り掛かった。



「私は君のことを信頼しているよ、泉水」
「惣右介にそう言ってもらえるなんて光栄」



藍染の頬に軽く口づけると、彼女は彼から離れて隊舎へと戻って行った。
外した眼鏡をかけ直すと、彼もまた自分の隊へと戻って行った。


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