副隊長は以前と何も変わらない。
なのに、私はどうしても意識してしまって副隊長の前だと何だかぎこちなくなってしまう。
本当にただ酔っぱらっていただけなんだろうか。



「……、リナ!」
「はい!」
「何ボケっとしとんのや、さっきから何度も呼んどるっちゅうに」
「すみません」



執務室。
普段は滅多に此処にこない隊長が気づけば私を呼んでいて。
慌てて立ちあがろうとすると、足を引っ掛けて盛大にこけた。



「全く何しとんねん。リナらしくない」
「すみません……」
「もう仕事終わりやろ?ちょっとついて来い」



私の返事も聞かずに隊長は私の腕を引いて歩き出した。
隊舎を出ると、街の方へと向かう。



「隊長、どうしたんですか?」
「飯や、飯」
「えっと……私もですか?」
「嫌ならええんやけど」
「そんなことないです!お供させていただきます」



隊長はほっとしてような顔になると、掴んでいた腕を離した。
連れていかれた先は普通の居酒屋。
正直、この前みたいな高そうな店じゃなくてほっとした。



「入りや、もう皆来とるはずや」
「皆?」



問いの答えを聞く前に開かれた障子の先には、他の隊の隊長や副隊長が居て。
思わずその場に立ちすくんでしまった。
部屋に居る面々は私の顔を見てニヤニヤと笑っている。



「へえー、その子がリナちゃんか」
「真子にしてはいい趣味しとるやんけ」
「余計なことは言わんでええねん。リナ、入りや」
「あ、はい」



隊長に促されるままに中に入ると、何故だか私は真ん中の席に座らされた。
両隣には平子隊長と十二番隊の猿柿副隊長。
真正面には九番隊の六車隊長。
妙に居心地が悪いのは気の所為じゃないだろう。



「はじめまして、秋野リナと申します」
「そんなん知っとるわ、真子がアホみたいにお前の事ばっかり話しよるからな」
「ひよ里!余計なこと言うなや。まあそないに固くならんでええ」
「しかし、私がこのような場所に……」



何で私が隊長格の飲み会に連れて来られたんだろう。
ほとんど話したことのない方達ばかり……というか、他隊の隊長や副隊長なんて雲の上のような存在なのに。



「心配すんな。俺らが連れて来いって真子に言ったんだからよ」
「そうだよ、いつも真子にこき使われて可哀そうな君の労いってとこかな」
「ローズ!誰がこき使っとるんじゃ」



六車隊長がニッと笑った……たぶん。
正直笑顔がとても怖い。



「まあ遠慮せんで飲めや。ウチのことはひよ里様でええからな」
「様なんて呼ばへんでええ。こんな奴呼び捨てで十分や」
「さすがにそういうわけにはいきませんよ。じゃあ、ひよ里さんとお呼びしてもいいですか?」
「かまへんで」



お酒が入ったおかげでなんとかこの不思議な状況も楽しめた。
皆さん本当に気さくで、お開きになる頃にはすっかり打ち解けていた。



「真子、リナ送って行きや」
「リサに言われんでもわかっとるわ。ほな、もう行くで」
「皆さん、ありがとうございました」
「真子のハゲに何かされたら、ウチに言うんやで!」
「はい、そうさせてもらいますね」



平子隊長に頭を小突かれて、手を引かれた。
驚いて隊長の顔を見ると、お酒の所為で赤く染まっていた。



「お前も余計な事言わんでええねん」
「ふふっいいじゃないですか。隊長、連れて来て下さってありがとうございます」
「楽しかったか?」
「もちろんです」
「ほんなら良かった。リナ最近何や考え込んどったやろ、どないしてん」



隊長が立ち止って私の顔を覗き込む。
確かに最近の私はミスをすることが多くなったし、仕事中もあの日のことばかり考えている。
でもまさか、隊長がそんな私の様子に気づいていたなんて。



「いえ、別に……」
「あの日、惣右介に送らせた日からや。アイツに何かされたんか?」



そう訴える隊長の目は真剣で。
思わず目に涙が滲む。
そんな私の様子を見て、隊長は急に慌てだした。



「悪い、泣かせる気なかってん」
「いいえ、隊長の所為じゃありませんから。大丈夫ですよ、何もされてませんから」
「そんなら泣くなや。俺が泣かせたみたいやないか……」



まだ人通りのある街中。
隊長の白い羽織は嫌でも目立つ。
通りすがる死神達は不思議そうな顔で私達を見ていた。



「あーもう、泣くなや。俺どうしたらええかわからへんわ」



隊長がぶっきらぼうに私の頭を撫でる。
その手が温かくて、嬉しくて涙は余計に溢れ出た。



「ありがとうございます……」
「ええんや。隊長が可愛え部下の心配するんは当たり前やぞ」



部下。
その言葉がずしりと心にのしかかった瞬間、私は自分の想いに気付いた。
私は平子隊長の事が好きなんだ。
ずっと憧れていたのに、近くに来すぎてしまったんだ。
隊長は私の涙が止まるまでずっと頭を撫でてくれた。
嬉しいはずなのに、どこか悲しかった。


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