一番隊隊首室前。
此処に来るのは初めてではないけれど、独特の威圧感に足がすくみそうになる。
けれども此処で怖気づいてはいけない。



「五番隊第三席、秋野リナです」



開かれた扉の向こうでは、護廷十三隊を統べる総隊長が待っていた。
無言で私を見つめるその人は、きっと私が今から言うことをわかっているのだろう。



「何用じゃ」
「本日はお願いがあって参りました。今回の空座町での戦いに同行させてほしいのです」



総隊長は大きく溜息を吐いて、試すような瞳で私を見た。
諦めてはいけない。
惣右介さんや市丸君の近くに居ながら、私はこの事態を知ることも止めることもできなかった。
私が彼等に力で敵うとは到底思えないけれど、せめてこの目で行く末を見たかった。



「それはそれは一死神としてか、それとも一人の女子としてか?」
「一死神として、五番隊三席としてです。自隊の隊長が招いた事態の結末をこの目で見たいのです」
「たかが三席が敵うような相手ではないぞ」
「承知しています。けれども、今まで鍛練を重ねて参りました。僭越ではありますが、副隊長方と同等程度の技量は持ち合わせているつもりです」



お願いします、ともう一度頭を下げた。
再び総隊長の深い溜息が聞こえて、顔を上げれば渋い顔をした総隊長が頷いた。

そして迎えた決戦の日。
私はレプリカの空座町に居た。



「リナさん、大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫。これでも私強いんだよ」



心配そうな表情の乱菊ちゃんが私の顔を覗き込む。
彼女だって辛いに違いない。
もしかしたら市丸君と直接に戦わないといけないかもしれないのだから。



「ええんですか?藍染隊長。リナちゃん居てますよ」
「まさか来るとは思わなかったけれどね。でも致し方ない、リナが私に刃を向けて来た時は、私が始末するだけだ」
「そないなことできへん癖に……」



姿を現した惣右介さん、市丸君、東仙さんの三人は、総隊長の流刃若火によって炎の中に閉じ込められた。
久しぶりに感じる惣右介さんの霊圧は重くて苦しかった。
空に浮かぶ炎を眺めながら、私は強く拳を握った。



「リナさん、こちらに!」
「イヅル君、弓親君は大丈夫なの!?」



名前を呼ばれて駆け寄ると、イヅル君の肩にはぐったりとした弓親君の姿。
よく見るとこれは穿点だ、心配はないだろう。
私は此処に戦闘要員として来たわけではない。
総隊長は私の同行を許可してはくれたけれど、それは治癒霊力を持った者としてだった。
普通の四番隊隊士ではもし何かあった時に自分の身を護ることが困難になる。
その点、効力は落ちるが治癒霊力を持っている私であれば、いざとなったら戦うこともできる。



「あちらに斑目三席がいます、お願いしてもいいですか?」
「わかった!」



急いで斑目君の元へと向かえば、破面と戦ってかなり負傷していて、射場さんに抱えられていた。
射場さんは私の姿を見ると斑目君を安全な場所に連れて行くと言って、私も後に続いた。



「秋野、お前は来てよかったんか?」
「藍染惣右介のことですか?それならもう大丈夫ですよ。もし彼が私に刃を向ければ、私はそれに応戦します」
「そうか……」



射場さんだけではない、いろんな人が私の心配をしてくれていた。
私にもし何かあったら、五番隊を動かすことのできる人が居なくなってしまうから。
徐々に苦境に立たされていく護廷。
隊長達の力をもってしても敵わないのか。
そして、まだ完全に回復しきっていなかったのにやって来てしまった桃ちゃん。
私はその治療にあたっていた。



「リナさん……ごめん、なさ……」
「謝らなくていいから、すぐに治すからね」



謝罪の言葉しか発しない桃ちゃん。
隣ではイヅル君が乱菊ちゃんの治療にあたっている。
早く、この悪夢のような日が終わればいいのに。


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