一日だけもらった非番。
覚悟を決めてやってきたのは現世だ。
恋次君が浦原隊長のところでお世話になっていると聞いて、空座町に着くと恋次君の霊圧を探った。
そして辿りついたのは浦原商店と書かれた小さなお店の前。
ゆっくりと深呼吸をして、いざ中に入ろうとすると私が戸に手を掛ける前に戸が開いた。



「浦原隊長……」
「秋野サン、お久しぶりっスね」



中から出てきたのは紛れもなく浦原隊長だった。
何を話せばいいのかわからずに立ちつくしていると、隊長は私の腕を引いて店の中へと招き入れた。
中に入ると恋次君が驚いたような表情で私を見ていた。



「恋次君、久しぶり……でもないか」
「リナさん、来たんっスね」
「阿散井サンはちょっと席を外してもらってもいいっスか?」



恋次君が部屋を出るのを見届けて、浦原隊長はにっこりと笑って私を見た。
百年前と何も変わっていない。
平子隊長も変わっていないのだろうか。
元気にしているんだろうか。
私のことなんかもう忘れてしまっただろうか。



「秋野サン、平子サンに会う気になったんスか?」
「え、あ……実はまだ心の準備が。今日は久しぶりの非番で、次いつ休めるかもわからなかったので」
「五番隊は大変みたいっスからね」



浦原隊長はきっと知っているんだ。
私と惣右介さんのことを。
平子隊長も知っているのだろうか。
その時、昔平子隊長に言われた言葉を思い出した。
惣右介さんに気をつけろ、と。
隊長は知っていたのかもしれない。
だとすれば、平子隊長達のことも惣右介さんが?



「そんな顔しないで下さい。藍染惣右介は秋野サンにとっては優しい人だったのでしょう?」
「はい……。でも、平子隊長達のことも彼が……」



浦原隊長は曖昧に笑って頷いた。
私は平子隊長達に会わせる顔がない。
そんなことも知らずに、この百年近くもの間ずっと彼の傍にいたのだから。
平子隊長に会う資格なんてないんだ。



「浦原隊長、やっぱり私帰ります」
「平子サンに会わせる顔がない、ですか?」
「はい。思い出は綺麗なままのほうがいいかな、なんて……」



段々と悲しくなってきて、自然と涙が零れてきた。
浦原隊長の大きな手が私の頭に伸びて来る。
昔もこんなことがあったな、そうだあの時も平子隊長のことで悩んでいたんだ。
やっぱり来るんじゃなかった。
浦原隊長に会えば、私は昔の私に戻ってしまう。



「突然すみませんでした」
「また、いつでも来て下さいね。アタシは大歓迎っスから」



漸く涙が止まった私は尸魂界へと帰るべく穿界門を開いた。
見送ってくれる浦原隊長の顔はどこか悲しそうで、きっと私もそれに負けないくらいに悲しそうな顔をしていたと思う。



「ごめんなさい、平子隊長……」



その足で惣右介さんと住んでいた家にあった荷物をまとめて、私は五番隊の宿舎に移った。
もう後ろを振り返るのは止めよう。
私は五番隊を支えないといけない立場で、いつまでもウジウジなんてしていられない。
あの人達のことを想って泣くのは今度こそ最後にしよう、そう思って、私はがらんとした宿舎の一室で一人涙を流していた。


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