こんなことって…… 息を切らせながら瞬歩で向かう双極の丘。 先ほど天挺空羅で知らされたのは信じられないような事実。 いや、私はまだ事実だとは思っていない。 この目で見るまでは、信じたくなんてなかった。 「惣右介、さん……」 双極の丘に着いた私が目にしたのは先日殺されたはずの惣右介さん。 その首にはあの日消えた四楓院隊長と砕蜂隊長の刀。 嘘だ、これは何かの間違いだ。 それでなかったら夢だ。 東仙隊長が、市丸君が、惣右介さんが……謀反を起こしただなんて。 一瞬、ほんの一瞬だけ惣右介さんと目が合ったような気がした。 もしかしたら私の気の所為なのかもしれない。 惣右介さんは酷く冷たい瞳だったから。 「時間だ……」 惣右介さんの一言が発せられると、三人を光が包んだ。 天に引き上げられる惣右介さんを見ながら、未だに自分が目にしている光景が信じられなかった。 瞳に映るのは惣右介さんの眼鏡を外した姿だけで、いつも見ていた顔なのに別人のように思えた。 リナ、すまない。 惣右介さんの微かに動いた口がそう言っているように思えた。 謝るくらいならなんでこんなことを……。 ずっと傍に居るって言ったのに。 全てが終わったら、惣右介さんの前でたくさん泣いて、ありがとうって言って、それから市丸君とたくさん惣右介さんの話をするはずだったのに。 そんな私の願いは脆くも崩れ去った。 「嘘……嘘でしょ!ねえ、惣右介さん!」 私が覚えているのはそこまでだ。 気が付けば、私は温かいものに包まれていて、それが布団で此処が四番隊だということにはすぐに気が付いた。 ベッドの脇を見れば、目を真っ赤にした乱菊ちゃんが座っていた。 市丸君も居なくなったんだ、幼馴染である彼女もまた悲しいんだ。 「リナさん、おはよう」 「おはよう……」 おはようなんて、そんな清々しい気分ではなかった。 けれども、彼女の顔を見て、あれが現実だったのだということを嫌でも気付かされた。 全部夢だったらよかったのに。 今苦しそうに笑っているのが乱菊ちゃんじゃなくて、いつものように優しく笑う惣右介さんだったらよかったのに。 「乱菊ちゃん、惣右介さんは……」 「虚圏に行きましたよ。東仙隊長もギンも」 「そっか……」 それからしばらく私達の間に会話はなかった。 何を話せばいいのかわからなかった。 しばらくすると、ぽつりぽつりと乱菊ちゃんがあの日起こったことを話し始めた。 「桃ちゃんが……」 「リナさんもしばらく休んでいてください。五番隊は他の隊でフォローするってことになりそうですから」 「そうはいかないよ、私三席だしね。それともあれかな、裏切り者の彼女だった私なんてもういらないのかな……」 惣右介さんと私の関係を護廷の中で知らない人はきっと居ないと思う。 彼が尸魂界を裏切ったのであれば、当然私にも疑いの目が向くだろう。 もしかしたら死神を続けられないかもしれない。 そしたら何処に行こうか、またあの流魂街に戻らないといけないのだろうか。 「そんなことないですよ。リナさんがどんな人なのかは皆良く知っていますし、もしリナさんが仲間だったなら、こんな風に悲しんだりしない」 「ありがとう」 「五番隊の隊士には京楽隊長と浮竹隊長が説明してくれて、皆リナさんのことを疑ったりしてないですよ。大丈夫です、ゆっくり休んで回復したらまた隊に戻って下さい」 あの日、惣右介さんが殺された日から我慢していた涙が一気に溢れだした。 そんな私につられるように、乱菊ちゃんも静かに涙を流していた。 後少しだけ、後少しだけこうして悲しませて下さい。 次に目が覚めた時に、笑顔で五番隊に戻れるように。 → back |