こんなことになるなんて、思いもしなかった。
慌ただしい瀞霊廷、広がる波紋。
こんなの、あの日以来だと遠い昔の出来事が脳裏に蘇った。



「大丈夫ですよね……」
「心配ないよ、すぐに終わるさ」



尸魂界に旅禍が侵入した。
その一報を聞いて間もなく、その旅禍は瀞霊廷にまで入って来た。
人伝に聞いた情報だと、旅禍の目的はルキアちゃんの処刑を止めること。
霊力譲渡の罪に問われた彼女は今、懺罪宮でその時を待っている。



「すまないけれど少し忙しくてね、しばらく隊舎に籠ることになるかもしれないんだ」
「はい、惣右介さんは隊長ですから」



こんな事態なのだ、隊長である彼には山のようにしなければならないことがある。
私は三席として少しでも彼の負担を減らせるよう仕事に励むことしかできない。
その日、私は夜遅くに家に帰り、一人で睡眠をとった。
起きたのは朝方、激しく叩かれた扉の音によってだった。



「リナさん!リナさん!」



玄関に出てみれば血相を変えた乱菊ちゃんがそこに居た。
一体何が合ったのかと聞けば、彼女は何も言わずに私の腕を掴んで走り出した。
死霸装を着たまま寝ていてよかったな。
そんなことを起き抜けの頭で考えていると、連れて来られたのは四番隊で、私が通されたのは一番奥の部屋。
真っ白な部屋の中心には白い布を掛けられた人が横たわっていて、教えられずともそれが誰なのか私にはわかってしまった。



「惣右介……さん……」
「秋野さん、お辛いでしょうが藍染隊長は今朝お亡くなりになりました。何者かに殺害されたようです」
「惣右介さん!」



目の前の光景が信じられなかった。
惣右介さんは大丈夫だと言った。
心配ないと言った。
すぐに元に戻ると言った。
それなのに、今私の目の前に居るのは動かない彼。
何で、どうして、惣右介さんは隊長なのに、強い隊長なのに、ずっと私の傍に居てくれるって言ったのに。



「惣右介さん!ねえ!」



いくら身体を揺さぶっても惣右介さんの目は開かなかった。
いつものようににっこりと笑いかけてくれることもなかった。
一体どうしちゃったんだろう。
何でこんなことになったんだろう。
どうして私の前から大事な人が消えて行くんだろう。



「リナさん……」



乱菊ちゃんが必死に私を抱きしめてくれた。
何時の間にこんなに大きくなったんだろう。
昔はあんなに小さくていつも頭を撫でていたのに、惣右介さんと笑って彼女と遊んでいたのに。



「松本副隊長、秋野さんを頼みますね」



乱菊ちゃんに支えられるようにして、私は四番隊内の一室に通された。
まだ頭は混乱しているけれど、昔惣右介さんが言ってくれた言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。



「こんな時だからこそ、しっかりしなきゃね」
「リナさん……」
「桃ちゃんは?」
「それが雛森は……」



乱菊ちゃんから聞かされたのは牢に入れられているという桃ちゃんのこと。
彼女は市丸君に斬りかかったのだそうだ。
市丸君が惣右介さんを殺すはずなんてないのに。
ああ見えて、意外と仲が良い二人なんだから。



「大丈夫だよ、三席の私がしっかりしないと惣右介さんに怒られちゃう」
「無理はしないで下さいね。私にできることがあったら何でも言って下さい」
「ありがとう、乱菊ちゃん」



副隊長である彼女はきっと私以上に忙しいはずだ。
彼女だけじゃない、皆辛いし大変なんだ。
いつまでも悲しんではいられない。
斬魄刀を握りしめ、私は隊長と副隊長の居ない五番隊へと向かった。


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