その日は昼から土砂降りの雨で、傘を持っていなかった私は隊舎で途方に暮れていた。
こんな日に限って惣右介さんは現世任務で留守。
加えて残業してしまったから隊舎に残っている隊士も少ない。



「瞬歩で帰るかな……」



戦闘時以外で瞬歩を使うことなんて普段はないのだけれど、この雨の中濡れて帰るよりはマシだ。
覚悟を決めて足に力を入れようとした瞬間、良く知った人物が視界に入った。



「あ、リナさん!」



その人物は私に気づくとこちらに走って来た。
暗闇でもよく映える赤い髪。
以前五番隊に居た恋次君だ。



「恋次君、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりっス。もう帰りですか?」
「うん。でも傘持ってなくって」
「じゃ、送って行きますよ。あ、夕飯食べました?」



まだだと言うと、一緒に食べに行こうと誘われて二人で小さな定食屋に入った。
こうして彼と話をするのは随分と久しぶりだ。
彼が十一番隊に移ってからは会うこともあまりなかったから。



「恋次君は今も十一番隊に?」
「あ、俺今度副隊長になるんですよ!六番隊の!」
「本当!?おめでとう!」



こうしてまた一人部下が隊長格の仲間入りをしていく。
部下の成長は嬉しくもあり、同時に変わっていく護廷のことを思うと少しだけ切なくなった。
私ももうそろそろふっ切らないと。



「六番隊って言ったら朽木隊長だよね。よかったね」
「はい!いつか絶対に朽木隊長を超えてみせますから」



恋次君の瞳は希望に満ち溢れていた。
かつての私もそうだった。
少しでも隊長に近づきたくて、必死に鍛練を重ねて。
結局超えることはできなかったけれど、今も尊敬する人であることに変わりはない。



「リナさん?」
「何でもないよ。これで朽木隊長の義妹さんともまた仲良くなれたらいいね。もう話したの?」
「それが、アイツ今現世に行ってて……」



先ほどまでの笑顔が一転、恋次君の表情が暗くなった。
今まで四大貴族に入ってしまった彼女に遠慮して話しかけられなかったと聞いていた。
こうして副隊長になったのだから、すぐにでもこのことを伝えたいのだろう。



「もうすぐ帰って来るんでしょ?びっくりさせてあげればいいじゃない」
「そうっスよね!アイツが帰って来たら副官章見せつけてやりますよ」



彼の笑顔を見ているとこちらまで元気になるような気がする。
私と話をしたことで彼が元気になってくれたのなら、これほどまでに嬉しいことはない。
それから少し話をした後、土砂降りの雨の中を家まで送ってもらった。
惣右介さんに話したらきっと喜ぶだろうな。
明日彼が帰って来たら一番にこのことを伝えよう。
そう心に決めて、一人で布団に入った。


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