今、私は幸せだ。
もう何十年も前の話、私は大切な人を失った。
私のモノクロの世界に色を付けてくれた人。
その人はもう居ない。



「リナ、早く支度しないと遅れるよ」
「はーい、すぐに行きます」



鏡で服装の確認をして家を出た。
今日は私の所属する五番隊の新しい副隊長の就任式だ。
それまで副隊長をしていた市丸君が三番隊の隊長になってからは、三席の私がずっと彼の補佐をしてきた。



「桃ちゃんが副隊長なんて、変な気分ですね」
「そうだね。僕としてはリナになってほしかったんだけど」
「私はまだまだ惣右介さんの背中を護るには力不足ですから」



惣右介さんは平子隊長が居なくなってからずっと私の傍に居てくれた。
市丸君ももちろんだけど、惣右介さんはずっとずっと私を見ていてくれた。
今は彼の隣に居ることが幸せだと感じる。
いつか、彼の背を護れるくらいに強くなりたいと思う。



「リナは僕の隣に居てくれるだけで十分だよ」



何年経ってもこんな台詞を言ってくれる彼はとても優しい。
五番隊の隊長としても、藍染惣右介としても皆に慕われている。
私が彼の隣に居ていいものかと何度も悩んだけれど、いつも彼は私だからいいんだと言ってくれた。
今の私があるのは間違いなく彼のおかげだ。



「着きましたよ。あ、桃ちゃん……じゃなくて雛森副隊長、おはようございます」
「おはよう、雛森君」
「おはようございます!リナさん、副隊長だなんてやめてくださいよ!」



慌てる彼女は女の私から見ても可愛いと思う。
入隊時からずっと五番隊に居て、今日からは副隊長だ。



「だって副隊長でしょう?」
「雛森君をからかうんじゃないよ。彼女がいいって言っているんだから今まで通りでいいんじゃないかい?」
「じゃあ、今まで通り桃ちゃんで。これからもよろしくね」
「はい!」



花のように笑った彼女は惣右介さんについて隊首室へと入る。
それに続いて私も中へ。
隊士達に顔見せとは言っても、彼女は元々五番隊だったので問題はなく、すぐに業務にとりかかった。



「雛森君、わからないことがあったらリナに聞いてくれ。ある程度のことは彼女がわかると思うから」



私のほうを見て惣右介さんがにっこりと笑う。
事実、この数年間に私に副隊長昇進の話が来なかったわけではない。
そして、それを嬉しいとも思った。
けれども私はまだ決心がつかなかった。
隊長格の仲間入りをするというのがどんなに大変で危険なことなのか、遠い昔に嫌というほどに思い知らされたからだ。



「リナさんと隊長って仲良いですよね!」
「そう見えるなら嬉しいかな」
「皆言ってますよ、瀞霊廷一のお似合いカップルだって」
「それは惣右介さんの評判がいいからだよ」



惣右介さんが留守にしている間、桃ちゃんと二人でお茶を飲みながら話をしていた。
あの頃に比べると護廷は変わった。
あの事件で隊長格の半分近くを失い壊滅的だった護廷も、今ではすっかり活気を取り戻している。



「私、藍染隊長にずっと憧れていたんですけど、リナさんも私の憧れですから!」
「桃ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな。私ももっと頑張らなくちゃね」



平子隊長、私も少しは成長できたでしょうか。
貴方に色を付けてもらった私の世界は、今日も鮮やかに輝いています。


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