周囲の慌ただしさはただの雑音にしか聞こえなかった。 私に指示を求める部下の声も何もかも。 唯一私の耳に届いたのは、平子隊長が居なくなったということだけ。 虚として始末されるよう命令が下ったということだけ。 「リナ君?」 どれくらいそうしていただろうか。 明け方、隊舎に居ると藍染副隊長が声をかけてきた。 彼は夜が明けきるまでずっと傍に居てくれた。 そして、朝になって地獄蝶が運んできた知らせ。 「リナ君、しっかりするんだ」 隊首室、今ここに居るのは私と副隊長だけだ。 もうそろそろ平子隊長が来るんじゃないだろうか。 寝坊にしては遅すぎる。 部屋にでも様子を見に行ってみようか。 「リナ君!」 副隊長の手が私の頬を打った。 はっとして顔を上げると、今にも泣きそうな表情の副隊長の顔があった。 辛いのは私だけじゃないんだ。 「突然こんなことになって信じられないのも動揺するのもわかるよ。でも君は四席だろう?こんな時こそしっかりしないといけないんだ」 「副隊長……」 「泣かないでくれ、僕がどうしたらいいのかわからなくなるよ……」 今まで我慢していた涙が一気に溢れだした。 隊長はもういない。 泣いたって隊長が戻ってくるわけじゃないことはわかってる。 それでも今は、今だけは泣きたかった。 大好きだった人にお別れすら言えなかったんだから。 「大丈夫、僕が傍にいるから」 私を包んでくれた副隊長は温かかった。 副隊長の死霸装を握りしめて、声が枯れるまで泣き続けた。 「副隊長、私」 「知ってるよ。リナ君は平子隊長のことが好きだったんだろう?君を置いて行くなんて隊長も人が悪い」 「そんなこと……」 「いつまでも泣いていると隊長に怒られるよ?ほら、拭いて」 副隊長に渡された手ぬぐいで涙を拭いた。 ぼやけていた視界がはっきりすると、目の前で副隊長が優しく微笑んでいた。 「辛くなったらいつでも僕のところにおいで。話を聞くくらいなら僕にもできるからね」 「ありがとうございます……」 「じゃあ仕事だよ、いつまでもギン一人に任せていられない」 そうだ、副隊長がここに居るということはこの混乱している隊をまとめているのは市丸君ということになる。 私は赤くなった目を前髪で隠して、副隊長と隊首室を出た。 → back |