夢を見た。 内容は覚えていないけれど、酷く悲しい夢だった気がする。 目が覚めると枕は涙で濡れていた。 「まだちょっと早いな……」 出勤するにはまだ早い。 かと言ってニ度寝してしまえば遅刻してしまうかもしれない。 少し早いけれど支度をして、私はまだ人気のない瀞霊廷をふらついていた。 「あ、市丸く……」 市丸君を見かけて声をかけようとしたら、すぐに藍染副隊長の姿が見えた。 二人ともこんな朝早くから何をやっているんだろう。 そしてもう一人、確か九番隊の人も居た。 何だか声をかけられるような雰囲気ではなくて、私は一人その場を後にした。 「今日は早いんやなあ」 「隊長、おはようございます」 結局いつもより早く隊舎に来てしまった。 すでに隊長が居て、眠気覚ましだと言って熱いお茶を飲んでいた。 「リナもいるか?」 「はい、自分で淹れますよ」 「ええから、座っとけ」 隊長にお茶を淹れてもらうなんてそんな大それたことをと思ったけれど、隊長は特に気にする様子もなく私の目の前にお茶を差し出した。 隊長っていつもこんな早くに来ているんだろうか。 「今日は隊長も早いですね」 「まあな。ちょっと面倒な事件が起きとるみたいやさかい」 「面倒な事件?」 隊長は少し間を置いて話し出した。 近頃流魂街で人が消えているらしい。 着ぐるみはそのままに、人だけが忽然と消えている。 確かに妙な話だ。 「やっぱり虚の仕業なんでしょうか……」 「恐らくはな。近いうちにどこかの隊が調査に駆り出されるんやろうな」 これほどに妙な案件だと、恐らく隊長格が調査に向かうだろう。 もし五番隊に回ってきたら…… その時はきっと私も同行することになるだろう。 ほんの少しだけ怖くなった。 「なんちゅう顔しとんのや。心配せんでも大丈夫やわ」 「すみません……」 「ウチの隊に回ってきたらリナも連れて行くことになるやろうけどな、惣右介も市丸も居るんや。それに何て言うたかて俺が居るんやからな」 隊長の大きな手が私の頭を撫でる。 やっぱり安心する。 私が怖いのは自分が負傷することなんかじゃない。 この手が、隊長が怪我をすることが怖いんだ。 「隊長、どこにも行かないで下さいね」 「何言うとんねん。俺は此処に居る」 ニカッと笑う隊長を見ていると心が軽くなる気がした。 やがて始業時刻が近づき、隊舎内が活気づいてきた。 「おはよう、リナ君」 「リナちゃんもう来ててんやね」 「おはようございます」 先ほど見た光景は頭の隅においやって、私はその日の仕事に取りかかった。 九番隊に出動命令が出たのはその翌日のことだった。 → back |