新しい毎日は思っていた以上に忙しくて、余計なことを考える暇さえも私に与えてはくれなかった。



「市丸君!」
「見つかってもうた」
「早く戻らないと隊長に怒られるよ」
「リナちゃんが居ってくれるんやったら戻るわ」



隊長の言った通り、私は今まさに子供のお世話をしているような気分だ。
遊びたい盛りなのはわかるけど、少しは仕事をしてほしい。



「ギン、リナ君に迷惑かけるんじゃないよ」
「別に迷惑なんてかけてませんよ。なあ、リナちゃん?」
「迷惑ではないですけど、少しは真面目に仕事をしてほしいですね」



苦笑いをする副隊長。
そんなことを構いもせずにニコニコと笑っている市丸君。
いつもの五番隊の光景だ。



「リナ、今日の夜空いとるか?」
「はい、特に用事はありませんよ」
「せやったら、仕事終わったら飯でも行こか」
「はい!」



いつの間にか戻って来ていた隊長。
ここ最近は市丸君の世話だったり、自分の仕事だったりであまり顔を合わせていなかったからか、妙に緊張した。



「なあ、隊長とリナちゃんって仲良えの?」
「え?」
「ギン、余計なことに口を挟むものじゃないよ」
「市丸は怖いなあ」



市丸君の口を藍染副隊長が押さえている。
彼の目に私達はどんな風に映っているんだろうか。
普通に考えれば上司と部下か。



「隊長、すみません少し遅くなりましたね」
「かまへん。どうせまた市丸が逃げ出しよったんやろ」



定時を少し過ぎた頃、仕事を終えた私は隊長のところに向かった。
隊長はすでに仕事を終えていて、私達は隊長がよく行くという街の外れにあるお店に向かった。



「リナ、お前に一つ言わなあかんことがあんねん」



店に着き、個室に入るなり隊長の目は真剣になった。
私も思わず姿勢を正して隊長を見る。



「これは忠告みたいなもんや。惣右介に気い付けや」
「藍染副隊長、ですか?」
「せや。アイツは何か企んどる」
「そんな……」



隊長の言葉が信じられなかった。
何かを企んでいるというその何かはわからないし、隊長の推測でしかない。
でも、私が入隊してからお世話になっていた副隊長は優しくて部下思いで。



「アイツがリナに何かするとは思えへんけどな、念のために頭の隅っこにでも置いとけ」
「はい……」



それからの食事は味気ないものだった。
料理だってもちろん美味しいし、目の前には隊長が居る。
それなのに、私の頭の中はさっきの副隊長のことで一杯だった。



「リナ?」
「は、はい!」
「そないに気にすな。俺の思い過ごしやったらそれでええ」
「そうですね」
「ただ、俺はリナに何かあったら嫌なんや。お前は惣右介と一緒に居る時間が長いし、もしあの三席みたいに……」
「三席?」



聞き返したけれど、答えは返って来なかった。
お前は知らんでええ、と一言だけ言われただけで。

それからだった。
隊長は以前よりも副隊長と距離を置いているように私には見えた。
何でだろう、もう昔みたいに三人でご飯を食べに行ったりすることはないのかな。
ほんの少しだけ、隊長を恨んだ。
副隊長は全然変わらないのに。


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