隊長のことが好き。
それを自覚してからどのくらい経ったんだろう。



「はあ……」
「何辛気臭い溜息吐いとんじゃ、ボケ」
「ボケは酷いですよ……」



今日は非番。
朝早くに部屋に乗り込んできたひよ里さんに連れ出されて、街に出てきている。
どうやら私は気持ちが態度に出やすいらしく、ひよ里さんだけでなく隊長と仲のいい人達はほとんど私の気持ちを知っている。



「あのハゲが鈍感やからな」
「ハゲじゃないですよ、ハゲじゃ」



気付いていないのは本人だけらしい。
でも、私はこの気持ちを伝える気なんてない。
隊長が私のことを部下として可愛がってくれているから、この関係を壊すようなことはしたくない。



「本っ当、お前等は見てて苛々するわあ」
「仕方ないじゃないですか、ただの席官が隊長と、なんていくらなんでも無謀だってことくらい私にもわかりますよ」



こうやって隊長の傍に居られるだけでも十分に幸せなんだ。
これ以上なんて欲張りにも程がある。



「ウチは言ってもええと思うねんけどなあ」
「隊長を困らせるのは嫌なんです」
「困るどころか大喜びすると思うねんけど……」
「どうしました?」
「何でもないわ」



あんみつを口に放り込むひよ里さん。
そういえば彼女は今日仕事なんじゃないだろうか。
死霸装着てるし。



「そういえばひよ里さん、いつまでも此処に居ていいんですか?」
「あ?」
「いや、その……お仕事は……」



機嫌が悪い時のひよ里さんは怖い。
何年経ってもこれだけは慣れない。



「知らんわ」
「まだ新しい隊長が来たばかりなのに」
「それが気に食わんのじゃ!」



十ニ番隊の隊長は最近代わった。
曳舟隊長がどこかに昇進するらしく、代わりに元二番隊の浦原という人が隊長になったらしい。
平子隊長の話では、どうやらひよ里さんとは仲が悪いんだと。



「そんなに浦原隊長のこと嫌いなんですか?」
「ウチはアイツを隊長なんて認めてへん!」
「それは困りましたねえ……どうしたらいいと思いますか?秋野サン」



聞き慣れない声が聞こえて振り向けば、渦中の人物浦原隊長がにっこりと笑っていた。
というか、何で私の名前を知っているんだろう。



「う、浦原隊長!」
「これはどうも、初めましてですね。いつもひよ里サンがお世話になってます」
「誰も世話になっとらんわ!」



ひよ里さんの飛び蹴りが浦原隊長の顔へ。
何と言うか……本当にこの人は隊長なんだろうか。



「お話は平子サンからよく聞いていますよ。何でも事あるごとにひよ里サンが押し掛けているそうで」
「いえ、そんなことないですよ」



真っ赤になった鼻をさすりながらも、浦原隊長は笑っている。
平子隊長が話をしていたから私の名前を知っていたんだ。
確かに、最近よくひよ里さんに会ってるしな。



「ウチを無視してリナと話すなや!オマエはさっさと隊に戻れ!」
「もちろんひよ里サンも一緒ですよ。さ、行きましょ」
「襟を掴むな!おい、リナもコイツに何とか言え!」
「ひよ里さん、今度は非番の日に来て下さいね」



襟を掴まれて連れて行かれるひよ里さんを見送って、私も甘味処を後にした。
平子隊長はあの二人は相性が悪いって言ってたけど、案外いい組み合わせなのかもしれないと私は思う。


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