「隊長、飲みすぎですよ」
「今日はお祝いなんやからええんや。ほら、惣右介ももっと飲み」



顔を真っ赤にした隊長が副隊長にお酒を勧めている。
副隊長も結構飲んでいるはずなのに顔色一つ変わらない。
私はと言えば、ちびちびとお酒を飲んでいる。



「大丈夫かい?顔が赤いけど……」
「大丈夫ですよ」
「リナももっと飲みや。遠慮なんかせんでええで」
「隊長、女性にむやみにお酒を進めるものじゃありませんよ」
「大丈夫ですよ、副隊長。いただきますね」



思えば、隊長の酔っぱらった姿を見るのは初めてだ。
隊の飲み会ではあんまりお酒を飲んでいないみたいだから。
今まで知らなかった一面が見れて、なんだか嬉しい。



「隊長、副隊長、ありがとうございます。なんだか他の皆に悪い気がしますね」
「そないなこと気にすんなや。俺はリナと飲みたかってん。まあ、惣右介が居らんかったらもっとよかってんけどな」
「何言ってるんですか。リナ君とこんな酔っぱらいを二人になんてできませんよ」



副隊長を冷めた目で見る隊長。
とうの副隊長はいつものようにニコニコと笑っている。
どちらが上だかわかりやしない。



「何や惣右介、俺は隊長やぞ?」
「隊長だから言っているんですよ。さ、少し水でも飲みましょう」
「隊長、副隊長も落ち着いて下さいよ。部下の前で喧嘩しないでください」



お酒が入って少し感情的になっている隊長を宥めて、お水を渡す。
隊長はグラスを手に持つと一気に流し込んだ。



「あかんなあ、俺」
「どうしたんですか?」
「何でもないわ。おおきに」



何だか不思議な気分だ。
ずっと憧れていた隊長がこうして目の前に居て、普通に話をしている。
手を伸ばせば届きそうな距離に居るんだ。



「明日も早いし、そろそろ帰りましょうか」
「せやな。リナが寝坊したら困るしな」
「ね、寝坊なんてしませんよ!」



いつものようにニヤリと笑って隊長が言う。
寝坊しそうなのは私じゃなくて隊長だと思うんだけど。



「冗談や、冗談。惣右介、リナ送ってってくれるか?」
「私は大丈夫ですよ。副隊長は隊長をお送りして下さい」
「俺のほうが大丈夫や。頼んだで」
「僕は構いませんが、よろしいのですか?」
「何がや」
「いえ……何でもありません」



何か言いたそうな副隊長だったけれど、店を出ると隊長と別れて私の部屋まで送ってくれた。
ひんやりとした夜風が温まった身体を冷やしていく。
酔い覚ましにはちょうどいい。



「今日の隊長面白かったですね」
「いつもはあんなに飲まないんだけどね。君の昇格がよほど嬉しかったんだろう」
「私だけじゃないですよ。藍染副隊長も」
「ふふ、そうだね。でもリナ君は隊長のお気に入りだから」



思わず隣を歩く副隊長の顔を見る。
いつもと同じように笑みを浮かべてはいるけれど、どこか悲しそうだった。
でも、私はその理由を聞けなかった。



「隊長だけじゃなくて、僕も君のことを気に入っているんだけどね」
「え?」



部屋の前に着いた時、ふわりと藍染副隊長の身体が私を包んだ。
温かい。
全てを包み込んでくれるような優しさが流れ込んできた。
そして、頬に感じた柔らかな感触。



「副……隊長?」
「すまないね、少し飲み過ぎたみたいだ」



身体を離すと、副隊長は私から目を逸らした。
何だか気恥かしくなって、私も俯いてしまった。



「今日は少し冷える。暖かくして寝るんだよ」
「はい、あの……」



さっきの行動の理由を聞きたかった。
でも、副隊長は私の言葉を遮るように背を向けて行ってしまった。
部屋に戻ってもずっとさっきのことを考えていた。
どうして副隊長はあんなことをしたんだろう。
そんなに酔っぱらっているようには見えなかったのに。
布団に寝転がって天井を見上げると、さっきの温かい感触が蘇ってきた。


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