正直なところ、死神に復帰するか否か悩んだ。 あの日、藍染によって虚化した日から、もう百年以上の月日が流れている。 様変わりしているであろう瀞霊廷、何より自分の率いていた隊に戻るのが怖くなかったといえば嘘になる。 加えて、“普通の”死神ではない自分を、果たして皆は受け入れてくれるのだろうか。 「なァ、どないに思うか?」 「戻っちゃえばいいんじゃないっスかねえー」 おそらく真剣に聞いてはいないであろう喜助の生返事も、その時の俺にとっては背中を押すものの一つになった。 「だって、会いたいんでしょ?リナサンに」 「しゃあけど、さよなら言ってしもうたんよなァ……」 これで最後だ、そう思って告げてしまった長年言えなかった言葉。 のこのこと戻って、振られてしまっては情けないやら悲しいやらで立ち直れないかもしれない。 それなら、いっそのこと本当に最後にしてしまって、いい思い出で終わらせたほうがいいのではないか。 そんなことを頭の中で巡らせていると、スパーンといういい音とともに、頭をはたかれた。 「いつまでウジウジ悩んどるんや、このハゲ!」 「痛いやないかい、アホ!人が真剣に悩んどるっちゅうに!」 「オマエなんかさっさと瀞霊廷に行ってしまえ!ハゲ真子!」 これ以上、リナを悲しませんでほしいんや……。 その言葉は、俺に重くのしかかった。 さよならを告げたところで、百年以上の片思いが消えてなくなるはずもなく。 俺の中には未だにあの子の存在がはっきりと残っていた。 「五番隊はさぞかし大変でしょうねえー、いくら優秀な三席がいるとはいえ、隊長がいないんですから」 今の護廷に隊長になれそうな人は居ましたっけ?なんて、わざとらしくこちらに視線を向ける喜助から、思わず目を逸らした。 こうやって、また、あの子から目を背けてしまうのか。 それで、本当に後悔しないのか。 そうして戻ってきた“古巣”。 やはりかつての面影は薄らいでいた。 これが、あの男の作ってきた隊なのか、そう思うと心が黒いものに覆われるような気がした。 けれどもひとつだけ、変わらないものがあった。 「大丈夫や、もう勝手に消えたりせえへん」 そう言葉にすれば、羽織をぎゅっと握られた。 長い長い夜が明けた瞬間だった。 ←→ back |