えらく強い結界の外をぐるぐると回って、漸く見つけたのは一番隊の副官。
俺達を中に入れてくれるということは、それだけ中が危ない状況になっているということ。
藍染の力は恐らく皆の、俺の想像をも超えている。
それほどまでに油断ならないのだ、あの男は。



「久しぶりやなあ、藍染」



アイツは余裕の笑みを浮かべていた。
一瞬だけ目線をずらしたその先に居たのはあの子。
何で此処に居るのか、怪我はしてないだろうか。
そんな考えはすぐに頭の隅に追いやった。
今はただ、この目の前の男を倒さなければならない。
此処に来たということは、あの子も覚悟を決めたのだろう。



次々と倒れていく隊長達。
隊長達に敵わない相手に私が敵うわけがない。
そして何より、私や隣で治療しているイヅル君が生き残ったとて、それは勝ったことにはならない。
イヅル君が私達を護っていてくれていた狛村隊長に声を張り上げた瞬間、懐かしい霊圧を感じた。



「平子、隊長……」



平子隊長だけではなかった。
ひよ里さんも、愛川隊長も、あの日消えた皆がそこには居た。
一瞬だけ、炎から出てきた惣右介さんと目が合ったような気がした。
最後に目にしたあの冷たい瞳ではなく、私をずっと見守ってくれていたあの優しい瞳が確かに私を捉えていた。



「平子隊長!」



叫んだ私を驚きの表情で見たのはイヅル君。
彼もまた、此処にいる人達の多くと同じように彼等のことを知らない。
それでも私は今見た惣右介さんの瞳を忘れようとするかのように叫んだ。
彼を止めて。
もうあんな惣右介さんを見ていたくはないから。



リナが口にしたのは目の前の男の名だった。
彼が生きていることを知った彼女は一体どう思ったのだろうか。
私が彼等を尸魂界から追いやったことを知れば、私を恨むだろうか。
自分のことを裏切った私を、できれば恨んでほしい。
恨んで憎んで、そうして私で覆い尽くされればいい。
もう私には傍に居てあげることはできないのだから。



「平子真子、私が憎いだろう?彼女を奪った私のことが」
「何言うとんねん、俺はアイツが幸せやったらそれでええねん」



けどな、その言葉の続きは彼の刀と共に私の中に刻みつけられた。
そんなことは分かっている。
彼女をあの時連れて行かなかったのは、彼女の純粋さを知っていたから。
その純粋さを汚すことに躊躇い、そしてまた私に失望してしまう様を近くで見ることが怖かったからだ。



「ニ度もアイツを傷つけたお前はやっぱり許せへんわ、藍染」



吉良君と射場君を斬り捨てた。
けれども、その場に居た彼女には手を出せなかった。
ギンに言われた通りだ。
私には彼女を手に掛けることなど出来はしない。
彼女はやはり、私の足枷になった。



「惣右介さん、もうやめて!」
「リナ、残念だがそれはできない。ここでお別れだ。今まで楽しかったよ」



白伏で彼女を眠らせた。
目覚めた時には私は此処に居ないだろう。
意識のない彼女に最後の口づけを。



「さようなら、私は確かに君のことを愛していたよ、リナ」



私がこの世界を手に入れたとしても、彼女はもう笑顔を向けてくれることはないだろう。
それならば此処で別れることが得策。
安らかに眠る彼女の姿を目に焼き付けて、私は世界の覇者となるべく歩き出した。


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