一護の修行の合間、息抜きにと思って倉庫の外に出てみれば懐かしい霊圧を感じた。
あの子が来ているのか、そう思うと何だか胸が締め付けられるような気がした。



「会いたいんじゃないんっスか?」



数日後、珍しく連絡を寄こしてきたのは喜助。
この男には本当に世話になった。
今、俺達が生きているのはこの男のおかげだ。



「今更どうしようもないんや。もう百年も前の話や」
「そう思っているようには見えませんけどねえ」



あの子がかつての自分の部下で、自分達を尸魂界から追いやった男と暮らしていることは知っていた。
望まずともそういった類の情報というのは耳に入るものなのだ。
敵であるとはいえ、あの藍染がリナに何かするとは思えなかった。
あの男もまた彼女に好意を寄せていることは知っていたから。



「俺にどうせえっちゅうねん……」



現世に来てからの百年間、全く女を知らずに生きていたかといえばそうでもない。
けれども頭の片隅にはいつもあの子が居て、ふとした瞬間にあの笑顔が、泣き顔が、全てが脳裏に蘇るのだ。
自分で思っていたよりも彼女に惹かれていたらしい。



「真子、何辛気臭い顔しとんねん」
「煩いわ、ちょい黙っとき」
「リナのことやろ?」



お前が辛気臭い顔の時は大方アイツのこと考えとる時や、などと言い残して去っていくもう百年以上の付き合いになる彼女。
彼女もまたあの子と友人だったのだから、きっと会いたいとは思っているのだろう。
会おうと思えば無理にでも会うことはできた。
自分の身を顧みずに尸魂界に行くことだってできなかったわけではないし、人伝に彼女に言葉を贈ることだってできた。
けれどもそれをしなかったのは彼女が幸せだと知っていたから。
噂で聞く彼女は、五番隊の三席として仕事もそして私生活も順風満帆だったのだ。
自分が出て行くことで彼女の幸せを壊したくないと思った。



「惣右介の奴、リナを悲しませんなや……」



藍染達が尸魂界を去ったと聞いた時、彼女もまた一緒に連れて行ったものだとばかり思っていた。
けれども、彼女は一人尸魂界に残された。
隊長が居なくなり、副隊長も働けるような状態ではないと聞くかつて自分が率いていた隊を、彼女は今たった一人で支えているのだ。
彼女のそんな成長が嬉しくもあり、また同時に悲しくもあった。
自分の知る彼女はまだ幼くて、強さと弱さの同居しているような少女だったのだ。
改めて百年という時の長さを感じた。



「そろそろケジメつけなあかんな」



斬魄刀を握りしめて立ち上がる。
全てが終わったら彼女に会おう。
もし、彼女がまだかつての上司としての自分を慕ってくれているというのなら、せめて最後に言えなかった別れの言葉を。
さよならの一言を。


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