失ったものはあまりにも大きかった。 隊長が三人抜けた護廷。 かつての事件が思い起こされる中、私は一人五番隊の隊首室で業務をこなしていた。 百年前のあの事件を経験している私は、立て直しのための一翼を担うことになった。 五番隊は隊長が抜けて副隊長も病室から出れないという一番被害を受けた隊でもあることから、臨時に私が隊長職もこなしている。 「リナさん、あれから寝てないんじゃないっスか?」 「そんなことないよ」 今日は恋次君が手伝いに来てくれている。 流石に三席の私一人に業務を任せるのは大変だろうという総隊長の計らいで、毎日他隊の隊長格の方が手伝いに来てくれることになったのだ。 あれから五日、私は一昨日からこうして仕事をしている。 乱菊ちゃんの言った通り、五番隊の皆は私を受け入れてくれた。 中には無事だったことを泣きながら喜んでくれる人も居て、少しずつではあるけれど私も元気を取り戻しつつあった。 それでもやっぱり惣右介さんと暮らしていた家に帰るのは憚られて、一度も家には帰っていない。 仕事をすることで気を紛らせようとしているのだ。 「あ、リナさん、今日黒崎一護が此処に来るんっスけど……」 「黒崎一護って、旅禍の?」 「はい。何でもリナさんに話があるとかで」 恋次君が言うや否や、隊首室の戸が開いた。 入って来たのはオレンジ色の髪の死神。 今回の事件で尸魂界を救ってくれた黒崎一護だ。 「初めまして、黒崎くん。秋野リナです」 「……どうも。俺、アンタに浦原さんから伝言を預かってて」 「浦原って浦原隊長?」 彼が生きていることは知っていた。 現世で死神相手の商売をしているらしいと噂で聞いていたから。 けれどもあの日以来一度も会ってはいない。 会ったらきっとあの人のことを思い出して辛くなってしまうから。 「皆生きてる、自分のところに来てくれれば会わせてやるって。俺には何のことかさっぱりわかんねえけど、アンタに言ったらわかるってさ」 “皆” その言葉が指すのが誰なのか、すぐにわかった。 平子隊長達だ。 「本当に生きてる……の……?」 「俺には誰のことかわかんねえけど、浦原さんはアンタがこれ聞いたらきっと泣くだろうって言ってた。たぶんアンタの思ってる奴等で間違いねえと思う」 「よかった……ありがとう、黒崎君」 溢れ出る涙を抑えきれなくて、黒崎君と恋次君が目の前に居るというのに私はしばらく泣き続けていた。 まだ会いに行く勇気はない。 けれども、この想いにケジメがついたら会いに行こう。 平子隊長の護っていた五番隊は大丈夫だって、言わなきゃ。 「黒崎君、浦原隊長に会ったら伝えてくれないかな。私も元気にしてますって。頑張ってますって伝えてほしいって」 「ああ、わかった」 「一護、他でもねえリナさんの頼みなんだからな、忘れたら承知しねえぞ」 「わかってるよ。浦原さんもアンタ……リナさんのこと気にしてたみてえだし」 気恥かしそうに笑う黒崎君を見て、私は久しぶりに笑った。 ちゃんと心から笑えていたと思う。 大丈夫、私は此処でちゃんと生きてる。 今の五番隊を支えられるのは私しかいないんだ。 「じゃ、俺はもう行くわ。恋次、リナさんに迷惑かけると浦原さんに怒られるからしっかりやれよ」 「てめえに言われなくてもしっかりやるっての。さっさと行け」 「またね、黒崎君」 黒崎君が去った後、恋次君が一体誰のことなのかと聞いてきた。 彼はあの事件のことを知らないから、私の大切な人達だとだけ伝えた。 私の世界に色を付けてくれた人。 その人はまだ生きていたんだ。 ← back |