隊舎に着くと、中は普段からは想像もできないほどに騒がしかった。
一度皆を広間に集めると、その前に立った。
泣いている者に顔を青ざめさせている者。
皆がきっと不安に思っている。



「秋野三席!藍染隊長は……」
「皆、静かに聞いてね。藍染隊長は今朝亡くなりました。雛森副隊長も今動けない状態です」



一気に騒がしくなる。
惣右介さんのことは皆知っている様子だったけれど、まさか桃ちゃんまで動けない状態だとは知らなかったのだろう。
牢に入れられているということは、余計な混乱を防ぐために伏せておいた。
これ以上隊を乱したくはない。
此処は惣右介さんの隊なのだから。



「ですから、これから少しの間私が指揮を執ります。お願いだから、悲しむのは全てが終わった後にして。悲しいのは皆同じ、私だって……」



私だって悲しい。
一番辛い時に傍に居てくれた惣右介さんはもう居ないのだから。
けれども此処で私が崩れてしまったら、きっと五番隊は駄目になる。
平子隊長が、惣右介さんが護って来た五番隊を駄目にするわけにはいかない。



「一、ニ班は瀞霊廷内に配置、三班は他隊との連絡を、四班は情報の収集を……」



今私に出来うる限りの指示を飛ばした。
せめて桃ちゃんが帰ってくるまでは。
さっき乱菊ちゃんの前で散々泣いたんだ、残りの涙は全てが終わった時の為に取っておこう。
そして、その時に惣右介さんにちゃんとお別れを言って、御礼も言わないと。



「リナちゃん」



隊首室で一人情報の整理をしていると、扉が開いて市丸君が顔を覗かせた。
机に向かっている私を見て、驚いたような表情をしている。



「市丸君、大丈夫だった?」
「ボクは大丈夫や。それよりリナちゃんのほうこそ仕事してて大丈夫なん?」
「今は悲しんでいられないからね。隊長も副隊長も居なくて、おまけに三席まで居なくなったら隊士が困るでしょ?」



精一杯の笑顔を向けた。
それでもやっぱり上手く笑えていなかったみたいで、市丸君は顔を歪めた。



「無理して笑わんでええんよ。ボクはそないに悲しそうなリナちゃんの笑顔なんか見たくない」
「ありがとう、でも今は……」



市丸君が急に私の傍に来て、そのまま腕の中に閉じ込められた。
そう言えば昔もこんなことがあったな。
平子隊長が居なくなった時、惣右介さんがこうやって落ち着くまで抱きしめていてくれたっけ。



「ごめんな、ほんまにごめんな……」
「市丸君が謝ることじゃないよ。全部終わったら、一杯泣かせてもらうからさ」
「リナちゃん……ほんまにごめん……」



私より市丸君のほうが泣いちゃうんじゃないかってくらいに、彼の声は震えていて弱々しかった。
市丸君だってきっと悲しいはず。
しばらくすると彼は身体を離していつものように笑ってみせた。



「ボクもこうして居れんな。隊長やし」
「そうだよ、市丸君は隊長なんだから」



去り際に彼は私を振り返った。
その顔はいつもの笑顔じゃなくて、少し苦しそうに見えた。
全てが終わったら、市丸君の話もたくさん聞いてあげよう。
誰も座っていない隊長の机をちらりと見て、私は再び自分の机の上に広げた書類に目を通し始めた。


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