「藍染三席、ここは……」
「ああこれはね、隊長の印がいる書類だよ。隊長のところに行っておいで」



入隊して一カ月。
少しは慣れてきたんだろうか。
まだ現場には出してもらえない。
まずは隊に慣れろと言われて、こうして毎日付きっきりで藍染三席に仕事を教えてもらっている。



「リナか。どないしたん」
「この書類に判子をいただきたく参りました」
「これでええやろ。そや、隊には慣れたか?」
「はい、藍染三席にも良くしてもらっていますし、少しずつですが慣れて参りました」



隊長は満足気に笑った。
ほぼ毎日顔を合わせているけれど、隊長はいつも笑っている気がする。
五番隊の皆が隊長を慕っている理由がわかる気がした。



「ほんなら良かった。あ、その堅っ苦しい喋り方は止めや。別に貴族のお譲さんっちゅうわけでもないやろ」
「え?まあそうですが……」
「敬語使うなとはさすがに言わへんけどな、もうちょい肩の力抜きや」



惣右介みたいになってまうで、と笑う隊長を見ていると安心する。
ひらりと地獄蝶が部屋に入って来て、伝令を伝えた。
流魂街に虚が現れた、と。



「流魂街か……」
「隊長が行かれるのですか?」
「まあ、隊長やさかい。そや、リナも来い」
「私がですか?」



隊長は立ちあがって私の頭に手を置いた。
壁に立てかけてある斬魄刀を手にすると、副隊長を呼んで何かを伝えていた。



「惣右介も来させるんや、ここらで成長したリナの力見せてもらわんとな」



部屋を出る隊長の後に続いて、私も部屋を出た。
握りしめた斬魄刀が、少しだけ反応してくれたような気がした。



「危なくなったら俺らが出るさかい、好きにやりや」
「はい!」



向かった先は流魂街の外れ。
私の目の前には三体の虚。
足がすくむけれど、ここで逃げ出すわけにはいかなかった。
ちらりと後ろを振り返れば、腕を組んでニコニコとしている隊長と不安げな表情をしている三席。
大丈夫、私ならできる。
一つ深呼吸をして、地面を蹴った。



「凄いなあ、思ったより成長しててんやなあ」
「当たり前ですよ、もう学生じゃないんですから」



三体の虚を無事に昇華し、私は二人の元へと戻った。



「あの……隊長は私が学生の頃を御存じなんですか?」
「覚えとらんのか?俺講師として行ったやないの」
「あの時の……」



驚いた。
隊長があの時の事を覚えていたなんて。
たくさんいる学生の中の一人だったのに。



「お前、あん時皆の代表や言うて俺と手合わせしたやろ?」
「はい……惨敗でしたが」
「そん時に思ったんや、この子は強くなるってな」



隊長は私の頭をぐしゃりと撫でた。
講師としてやってきた隊長と恐れ多くも手合わせをさせてもらった私。
結果は言わずもがなで。
でも、その時に思ったんだ。
この人の下で働きたいって。



「リナ君は知らないだろうけどね、隊長は君が五番隊を希望していると知ってそれはもう喜んでいたんだよ」
「惣右介、余計な事言うなや」
「本当の事じゃないですか。副隊長も呆れていらっしゃいましたよ」
「リナ、惣右介の言うことなんて信じたらあかんで」
「えっと……」



何だかむず痒い。
隊長が私の事を覚えていてくれただけでも嬉しいのに、私が五番隊に入るのを喜んでくれていただなんて。



「ほら、リナ君が困っているじゃないですか」
「惣右介が余計な事言うからや。もう帰るで」
「はい!」



歩き出した隊長を小走りで追いかける。
少しだけ、ほんの少しまた隊長に近づけた気がした。


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