六番隊に書類を届けに行けば、隊首室の空気が酷く重かった。
それもそのはず、朽木隊長の義妹さんであり、恋次君の幼馴染である朽木ルキアちゃんが現世で行方不明になっているのだ。
惣右介さんから聞いた話だと、もう現世での任務帰還は終わっているのに尸魂界に帰って来ず、加えて霊圧の捕捉もできないらしい。



「では、明日までにお願いします」
「ああ、御苦労だった」



普段から口数の少ない朽木隊長だけれど、最近は以前にも増して険しい表情をしている。
副隊長である恋次君からも、すっかり笑顔が消えている。



「リナちゃん」
「市丸君、またサボってるの?」
「サボりやない、散歩しとるだけや」



五番隊に帰ろうとしていると、市丸君がひらひらと手を振っていた。
散歩だと言っているけれど、たぶんサボりだろう。
今頃慌てているであろうイヅル君を心の中で応援することにした。



「気になる?ルキアちゃんのこと」
「うん……恋次君も朽木隊長も心配そうだったしね」
「せやなあ、はよ見つかってくれればええなあ」



五番隊へと向かう私に何故か市丸君はついて来て、そのまま一緒に隊首室へと入った。
中に居たのは惣右介さんだけで、市丸君の姿を見て小さく笑った。
彼もきっとサボっているということに気付いたんだろう。



「ギン、こんなところで何をしているんだい?」
「散歩ですよ、散歩。ちょうどリナちゃんに会うたんで一緒に来てみただけです」



早く帰れと言わんばかりに市丸君に霊圧を飛ばしている惣右介さんを宥めるのもいつもの私の仕事。
市丸君はいつもこうやって惣右介さんをからかって楽しんでいるのだ。
こんな二人を見ているのも嫌いじゃないけれど。



「あ、地獄蝶ですよ」



その時、隊首室内に地獄蝶が入って来た。
指に止まらせて伝令を聞けば、ルキアちゃんが発見されたらしい。
しかし、彼女から霊圧は少ししか感じられなかった、と。



「霊力譲渡、か……」
「ルキアちゃんが?そんな……」



霊力譲渡は霊法においては大罪とされている。
彼女はすぐに尸魂界に連れ戻され、相応の処罰を受けることになるだろう。
最悪の場合は霊力の剥奪だろうか。



「大丈夫だよ、いくらなんでも極刑にはならないだろうから。それに彼女は朽木家の人間なんだ、心配することはない」



にっこりと笑う惣右介さんに、私もぎこちない笑みを返した。
きっと大丈夫、彼女には直接会ったことはないけれど、恋次君の話を聞いている限りでは理由もないのに罪を犯すような子じゃないと思うから。
すぐにまたいつもの日常に戻る。
そう願わずにはいられなかった。


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