平子隊長に憧れて五番隊に入った。
席次が上がる度に彼に近づけたような気がして嬉しかった。
確かに私と桃ちゃんは似ていると思う。
違うのは、今彼女は尊敬する人の近くに居るということ。



「リナちゃん?」
「ううん、何でもない。桃ちゃんは凄いよ」



ふと、市丸君が真剣な顔になった。
普段の彼はいつもニコニコとしているからか、見慣れない表情にまるで別人のような錯覚を覚える。



「ほんまにそう思うてる?」
「どういうこと?」
「雛森ちゃんのこと凄いてほんまに思うてる?」



すぐには答えられなかった。
市丸君は隊長なんだから、きっと知っている。
何度か打診された副隊長昇格の話に私が首を縦に振らなかったことを。
きっと、その理由にも察しがついている。



「ボクにとってリナちゃんは大事な人や。入隊してからずっと面倒見てもらっとたしな。せやからボクはリナちゃんの悲しそうな顔は見たくないんや」
「市丸君……」
「あの人のこと、まだ忘れてへんのやろ?」



そんなことないとは言えなかった。
事実、何十年経とうとも平子隊長は私の中に居座っていて、もしかしたらひょっこり帰って来るんじゃないかなんて気もしてる。
いつものようにニッと笑って。



「心配せえへんでも藍染隊長には言わへんよ。これはボクとリナちゃんの秘密や」
「ありがとう、市丸君。でも惣右介さんのことが好きなのも本当だから」
「そないなことわかっとるよ。藍染隊長とリナちゃん見よったらな」



笑った市丸君と平子隊長の笑顔が重なった。
きっと、同じ関西訛りだからだ。
店を出ると辺りは真っ暗で、家の前まで市丸君が送ってくれた。
家の前では惣右介さんが笑顔で待っていた。



「おかえり」
「ただいま、惣右介さん」
「ほな、ボクはもう行くな」
「ありがとう、市丸君」



繋いでくれていた手を離すと、市丸君は闇の中に溶けていった。
それを見送る惣右介さんが少し苦い顔をした。



「僕が迎えに行けばよかったかな」
「そんな、大丈夫ですよ」
「さ、早く中に入ろう」



今度は惣右介さんの手が私を包んだ。
大きくて温かい手。
あの日からずっと私を守ってくれていた手だ。



「市丸君もいい子に育って良かったですね」
「ああ、あれでもう少し仕事を真面目にやってくれるといいんだけれどね」
「イヅル君大変そうですからね」



私達は顔を見合わせて笑い、温かい家に中に入った。
平子隊長達が居なくなって、ちょうど百年が経とうとしている頃だった。


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