平子真子が居なくなってもう一年以上が経つ。
私は五番隊の隊長に、ギンは副隊長になった。
計画は順調に進んでいた。
そう、順調に。



「藍染さん、お待たせしました!」
「僕も今来たところだよ」



私が隊長になってまず彼女に言ったこと、それは私を隊長と呼ぶなということだった。
彼女が平子真子をどれだけ慕っていたのかは近くに居た私が一番良く知っている。
あの男と自分を重ねられるのが嫌だった。
あの男の記憶など、彼女から消し去ってしまいたかった。



「藍染さんが死霸装着てないのって何か変な感じがします」
「そうかい?僕はリナ君が死霸装を着ていないのも変な感じがするよ」
「そういえば、仕事以外で会うことなんてありませんでしたもんね」



彼女はあの直後に比べると少しずつ笑顔が戻りつつある。
三席に昇格させたのは、少しでも傍に置いておきたかったから。
ただの私の勝手だ。



「それで、用って何だったんですか?」
「用って言うほどのものでもないんだけどね、僕の非番に付き合ってもらいたかったんだ」
「私がですか?」
「君だからだよ」



ほんのりと頬を染めた彼女の手を取る。
指を絡めれば彼女もそれに答えた。
この一年、彼女の一番近くに居たのが私だ。
そうさせたのは自分なのに彼女の悲しむ顔を見ているのが辛くて、卑怯だとわかっていながら手を差し伸べた。
近づけば近づくほどに自らの気持ちを抑えるのが辛くなった。



「藍染さん」
「なんだい?」
「ありがとうございます」



私はこんなにも臆病だったのだろうか。
私にもまだ人の心というものが残っていたのだろうか。



「リナ君、僕は君が好きだよ」



誰かを恋慕うなど馬鹿げていると思っていた。
信じるなどという言葉は所詮幻想でしかないものだと思っていた。



「今すぐじゃなくてもいいんだ。でも、僕が傍に居ることを忘れないでほしい」



絡めていた手の力が強くなった。
私はまた彼女を悲しませることになるだろう。
早かれ遅かれ、必ず。
でもそれまでは彼女の傍に居たいと思った。
いつか彼女が“僕”の本性を知ってしまうその時までは。


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