とは言え、隊長が私と距離を置いているのは明らかで。
副隊長も市丸君も心配してくれてはいるけれど、やっぱりこういうことは自分で解決しないと。



「隊長、判をお願いします」
「ああ、そこに置いとってや」
「すみません、急ぎの書類なので今頂けますか?」



私の顔をちらりと見ると、隊長は書類に目を通した。
前なら、こんな時には何か一言でも話してくれたのに。
今の彼は無言で私に書類を手渡す。



「ありがとうございます。あの……隊長、最近私のこと避けてませんか」
「何で俺がお前のこと避けなあかんのや。用が終わったらさっさと行きや」



隊長は私の顔を見ようともしなかった。
私が把握している限りでは、今日は他に急ぎの仕事があるわけではないはず。



「嘘吐かないで下さい」
「嘘じゃないわ。お前の勘違いや」
「だったら、何で下向いてるんですか!何で……」



格好悪い。
そう思いながらも、ぽろぽろと涙が零れてきた。
隊長はといえば、未だに下を向いたままで。
居たたまれなくなって、書類を残して隊首室を飛び出した。



「秋野サンじゃないですか。こんなところで何してるんですか?」



走って走って、気が付けば瀞霊廷の外れに来ていた。
そこに居たのは浦原隊長で、私の姿を見ると心配そうに顔を覗き込んできた。



「浦原隊長……」
「何かあったんならお聞きしますよ」



にっこりと笑う浦原隊長を見ていると肩の力が抜けて、その場に座り込んだ。
そして、平子隊長のことを話した。
嗚咽混じりに話している私を、浦原隊長は話が終わるまでずっと笑顔を絶やさずに見てくれていた。



「平子サンも不器用な方ですねえ……」
「不器用、ですか?」
「ええ。大丈夫、彼は秋野サンのことが嫌いになったわけでも、秋野サンが何かしたわけでもないと思いますから」



さて、と立ちあがった浦原隊長は仕事に戻ると言ってその場を後にした。
私も仕事に戻らないと。
届けなければいけない書類を隊首室に置いて来てしまった。
意を決して立ちあがると、再び隊首室へと向かった。



「失礼します」



隊首室の中に隊長は居なかった。
代わりにそこに居たのは副隊長で、私の姿を見ると少し驚いたような表情をした。



「リナ君、隊長が探していたよ」
「隊長が?」
「うん。なんだか焦っていたみたいだったけど」



私が隊首室を飛び出したからだろうか。
もしかしたら、書類の件かもしれない。



「副隊長、机の上に今日〆切の書類ってありませんでしたか?九番隊に届けないといけないんですが……」
「ちょっと待ってね……いや、此処にはないよ」



隊長が持って行ってくれたんだろうか。
副隊長は隊長が戻るまでここに居るといいと言ってくれた。
今、顔を合わせるのは気が引けるけれど、隊長が私を探してくれているのであればきちんと謝らないと。



「はい、これで拭きなさい」



副隊長が差し出したのは手ぬぐい。
どういう意味かわからないでいると、副隊長はふっと笑った。



「そんな顔で隊長に会う気かい?」
「あ……ありがとうございます」



顔に手をやると涙の跡が残っていた。
きっと目も赤い。
理由を聞かないでくれる副隊長はやっぱり優しい。



「お茶でも飲んで少し落ち着くといい」
「副隊長……」



隊長が戻ってきたのはそれからすぐのことだった。
顔を見た瞬間に怒鳴られた。
突然出て行くから心配したんだ、と。


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