「ひよ里さんの機嫌が悪くて、隊長と何かあったって聞いて……」
「何や、お前に誰か言ったんか。全く余計なことを……」



しばらくすると落ち着いて、私は隊長の横に座っていた。
ひよ里さんの話をすると、隊長はばつの悪そうな顔をした。



「大丈夫や、リナは心配せんでええ。ちょっとした喧嘩や、喧嘩」
「でも、隊長が仕事抜け出すなんて」
「ひよ里は俺のこと心配してくれてんのや。しゃあからあないに怒っとるんやろうなあ」



隊長は空を見上げて呟いた。
私にはわからないけれど、きっと隊長とひよ里さんは昔から仲が良いんだろう。
いつも言い合っているけれど、二人とも楽しそうだ。
こんなこと思うのは良くないってわかってはいるけれど、少しだけ胸が痛んだ。



「リナにも心配かけたみたいやしな。ごめんな」
「副隊長にも謝っておいて下さいね。今頃……あ!」



そういえば副隊長が隊首会があると言っていたということを思い出し、急いで隊長の腕を引く。
走り出した瞬間に躓いて身体がよろめいた。



「お前はどんくさいなあ。そないに急いで」



こけることはなかった。
隊長が私の身体を引きよせて阻止してくれたから。
そして今、私は隊長の腕の中におさまっていて。
心臓の音が聞こえやしないかと内心焦っている自分がいた。



「何や、どっか怪我でもしたか?」
「い、いえ、隊首会に……」
「あ、せやったなあ今日は隊首会やった。知らせてくれてありがとな」



隊長は私から離れるとすぐに瞬歩で消えた。
その場に残された私は腰が抜けて座り込んでしまった。



「こけそうになったのを止めてくれただけなのに……」



たったそれだけで他意はない。
そんなことわかっているのに、煩く響く心臓の音はしばらく鳴り止みそうになかった。


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