>> 1 任官式の前日、私は山じいの屋敷に来ていた。 山じいと鈴と三人で食事をするのは久しぶりだ。 これから隊長になれば、さらにその機会は減るだろう。 「姉様、おめでとうございます」 『鈴、ありがとう』 鈴はまるで自分のことのように喜んでくれて、私も嬉しかった。 山じいも京楽さんたちが上手く言ってくれたのだろう、私の昇進を喜んでくれている様子だ。 「優奈、隊長になるからは隊士の命を預かる身として精進するのじゃよ」 『はい、わかっております』 「しかし…無理はするでない。困ったらいつでも儂のところに来い」 山じいのこんな優しさが身に染みる。 あの日、私たちを拾ってくれてからというもの、山じいは本当の孫のように私たちを可愛がってくれた。 これからは護廷の一隊を預かる隊長として、少しでも山じいの力になれればいい、心からそう思った。 『それでは、また来るからな』 「はい、あまり無理はしないでね姉様」 私は、明日の朝が早いので夕食が済むとすぐに部屋に戻った。 鈴はいつものように私を笑顔で送ってくれた。 その笑顔はまるで太陽のように輝いていて、いつもと同じように私の心を照らしてくれた。 しかし、それが鈴の笑顔を見た最後だった。 翌日、任官式の為一番隊に向かった。 中に入ると、既に各隊の隊長、副隊長が揃っていた。 『元五番隊副隊長、暁優奈です。これから十番隊隊長として職務を全うさせていただきます』 私は深々と頭を下げた。 頭を上げてちらりと五番隊のほうをみると、惣右介と目が合った。 彼も今日から副隊長だ。 彼の目にも自信が満ち溢れているのが見て取れた。 「優奈、よろしく頼むぞ」 『はい、総隊長殿』 それから私は十番隊へと行き、隊士たちに挨拶をした。 どうやら皆は私のことを歓迎してくれているようで、これからの新しい生活に心躍るような、そんな気分だった。 『京楽さん…職務中ですよ?』 就任から一週間ほど経ったある日、隊首室に京楽さんがやってきた。 用があるのかと思えば、どうやら副官のリサにお酒を取られて落ち込んでいるらしい。 「優奈ちゃーん、僕死んじゃう…」 『このくらいで死なれては困ります。はい、どうぞ』 私は棚の中から酒饅頭を出して差し出す。 すると、京楽さんの目が輝きだした。 「さすが優奈ちゃん、わかってるねえ〜」 『それ食べたら戻ってくださいよ?リサに怒られるのは嫌ですから』 聞いているのか聞いていないのか、京楽さんはちびちびと饅頭を食べている。 その時、誰かが走ってくるような音が聞こえた。 ―バタンッ 『平子隊長…如何されましたか?』 「優奈、鈴が、鈴チャンが…!!!」 prev//next back |