>> 1 あれからどのくらいの時が経ったのだろうか。 私が現世へとやってきてもう40年近くが経つ。 数年に一度、秘密裏に尸魂界へ帰る以外はこうして現世でゆっくりと流れる時にただ身を任せている。 『次はこの街、か』 各地を転々としながら暮らす毎日。 一か所にとどまれないのは、他でもなく私が人間ではないせいだ。 見た目がさほど変わらないことは、私の死神としての力がもうこれ以上成長しないことを指していた。 『この街はなんだか懐かしい香りがする』 ぽつり、と呟いてはみたがその言葉は誰にも届かなかった。 大きなトランクケースを引き、新しい住処へと入る。 今の私の姿はさながら人間で、こんなに現世に馴染んでいる自分に我ながら感心する。 最後に尸魂界へ帰ったのはいつのことであったか、などと考えていると、虚の気配がした。 義骸を脱ぎ、虚の気配を感じるほうへと急ぐ。 しかし、何かがおかしい。 近づけば近づくほどに感じる懐かしい霊圧。 やがてそれは確信へと変わった。 『平子…なのか…?』 そこに居たのは2人の死神。 オレンジ色の髪を持つ者と金色の髪を持つ者。 私は目の前の光景が信じられなかった。 何故あの男が此処に? しかも、あれはあの夜に見た虚の仮面。 「優奈か、久しぶりやなァ」 私に気が付いた男がこちらへ来る。 やはり、平子だった。 もう一人の死神はどこかへと行ってしまった。 『無事だったのか?今まで何処に…』 「それはこっちの台詞やっちゅうねん。お前病気で療養しとるって喜助から聞いとったんやけどな」 そう言って笑う姿は百年前と何も変わっていなかった。 『すまない…あの時私が…』 今更に溢れだす罪悪感を止めることができず、私はその場に崩れ落ちた。 prev//next back |