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「優奈さ〜ん、でね、ギンがね…」



全く、酒に強いのか弱いのか。
乱菊は私と酒を飲むと、決まってギンの話をする。
昔の話、今の話、とにかく楽しそうに私に話をしてくれる。



「聞いてます?」

『聞いておる。そろそろ帰らぬか?明日に響く』



口をとがらせる乱菊を他所に、代金を支払った私は足早に外に出る。
空を見上げると綺麗な月。
どうやら今日は満月のようだ。



「綺麗ですね、月」

『そうだな』



隊舎へ戻ろうとする乱菊に、先に帰っておいてくれと言うと、私はあの丘へと歩みを進めた。



「珍しいじゃない、優奈ちゃん」



どうやら先客が居たようだ。
派手な羽織に手には杯。



『京楽こそ、どうしたのだ?』

「なんだよ〜忘れちゃったのかい?」



今日は鈴の生まれた日。
京楽もこの鈴が命を落とした場所で、祝い酒でも楽しんでいたのであろう。



「一杯どう?」

『…いただこうか』



京楽と交わす酒が一杯で終わるはずもなく、空になった杯には次々と酒が注がれた。



「優奈ちゃん、僕思うんだけどさ…」



突然、京楽がしんみりとしたような顔つきになった。



「優奈ちゃんはもっと自由に生きていいと思うんだ」

『何の話だ』

「いや、これは独り言なんだけどね、僕も浮竹も山じいも、優奈ちゃんが何を抱えているのかわからない。でも、僕らにとっては優奈ちゃんはただの孫であり娘なんだ。暁家の者であるとか、隊長であるという前にね」



だから寂しいんだよ、と言い残して、京楽は立ちあがった。
私は何か言わなければと思ったが、その時にはもうその姿は消えていた。



『自由、か…』



自由とは一体何なのか。
私は今も自由に生きている。
自分でそう思っているだけなのか?
あの…あの事件がやはり心のどこかに引っかかっているのであろうか。



―にゃあ…



黒猫が寄ってきた。
何故だろう、懐かしい感じがした。

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