>> 1 “気配を消す虚”が出てきたのはそれっきりだった。 喜助の結論からすると、突然変異であろうと。 私は友人である惣右介に疑いの目を向けてしまったことをひどく後悔した。 しかし、惣右介の疑いが晴れたということは同時にギンの疑いも晴れたということ。 「優奈サーン!」 それから幾年か経った。 今日も今日とて終業時間になるとやってくる。 最近では私が稽古することはほとんどなくなった。 代わりに、夕食を一緒に取ることが多くなった。 『ギン、今日は乱菊も来るそうだ』 「なんやの、乱菊に優奈サンとボクの時間邪魔されたない…」 何を子供の癖にとからかうと、顔を真っ赤にして言い返してくる。 三席とはいえ、まだまだ子供。 可愛らしいものだ。 『今度は惣右介も誘おうな』 「いやや、絶対にいやや!」 そういえば、最近惣右介に会っていないなと思った。 大方、平子が惣右介のことをこき使っているのだろう。 明日にでも差し入れを持っていってやるかと思いながら、ギンと乱菊の夕食を作る。 鈴がもし生きていたなら、この二人の事を弟と妹のように可愛がっていたのだろうな。 翌日、私は手土産を持って五番隊へと向かった。 隊首室に居たのは平子と顔を知らない死神。 席官だろうか。 惣右介は非番なのだろうか。 「優奈、珍しいやないか」 『平子が惣右介のことをこき使っているのではないかと思ってな、差し入れだ』 持ってきた人気の甘味処の菓子を平子に渡す。 次の瞬間、平子の口から出てきたのは信じがたい言葉だった。 「惣右介、良かったなァ」 今、平子は惣右介と言ったのか。 目の前に居るのは惣右介ではない。 それなのに、平子は惣右介であると思っている。 『完全催眠…』 「優奈、何か言ったか?」 なんでもないと返すと、私は急いで五番隊を後にした。 一体どういうことだ。 とりあえずは本人に聞いてみようと思ったが、惣右介の事だ、上手くはぐらかされるに決まっている。 どうすればいいのだ。 何がどうなっているのだろうか。 prev//next back |