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『惣右介』



じっと動かないその男に声をかけた。
監獄とはいえど、中は広い。
殺風景なこの場所で気の遠くなるような月日を過ごさなければならない彼を想う。



「優奈かい?此処は面会可能なのかな」



ふっと笑みを浮かべる惣右介は、手足に枷をはめられてはいるが昔のままだった。



『そんなわけないだろう。無理を言っていれてもらった』

「そうか、代償はなんだい?」



あの四十六室が簡単に頼みを聞いてくれないことは彼もわかっていたのだろう。
そして、私が言わずとも彼はその代償が何なのかきっとわかっている。



「命…」

『そうだ。暁家の末裔の命だ』



惣右介の顔が少しこわばったような気がした。
もう二度と彼に会うことはできない。
これが最期なのだ。



『最期に惣右介に会って言いたいことがあった』



言葉を発することもなく、じっと私を見ている惣右介に私は言った。



『お前は私の敵だ。しかし…私はお前を愛してしまった、惣右介』



涙が零れそうになるのを抑えて、私は惣右介に背を向けた。
そして、部屋の扉に手をかけた。
本当はもっと言いたいことがあったのかもしれない。
しかし、今はもう何を言えばいいのかすらわからなかった。



「待ってくれ、優奈」



扉を開こうとした私を惣右介が呼びとめた。
思わず振り返れば、悲しそうな顔をする惣右介が目に入った。



「私は君を悲しませてしまったようだね。それでもわかってくれ、私も君を愛している。いつかきっと、君を迎えにいくよ」

『ふ…そんなことできるわけがないだろう』



私はもう死ぬのだ。
二度と惣右介に会うことはない。



「大丈夫だ、君は死なない」



惣右介は最後に優しい笑みを浮かべた。
私はその顔を目に焼き付けて、部屋を後にした。

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