>> 5 「優奈、そういや夜一が呼んどったで?」 ある朝、詰所に行くと隊長に夜一さんが呼んでいたと伝えられた。 まだ両親が生きていた頃はよく遊び相手になって頂いた。 幸せだったあの頃を思わず思い出してしまう。 『そうですか。昼にでも伺います』 「それにしても、優奈があの暁家の姫君やったなんてなァ〜。総隊長の孫や聞いてたからびっくりしてもうたわ」 現世のジャズとかいう音楽のレコードをいじりながら、隊長は笑った。 『昔の話です。今はもう屋敷もありませんし…』 私たちが山じいの屋敷に移った後、暁家の屋敷を再建しようという話が持ち上がった。 しかし、再びあのような悪夢が襲うことを恐れて私はそれを拒否したのだ。 「ええやないか、妹さんは元気なんやろ?」 『はい、総隊長のところでお世話になっています』 「偉いべっぴんさんやっちゅう噂やで?」 鈴は滅多に屋敷から出ない。 山じいが可愛がり過ぎて箱入り娘となっているのだ。 それでも、たまに屋敷に訪れる隊長格を通して鈴の噂が広まっているようだ。 『いくら隊長とはいえ、鈴は渡しませんよ?』 「怖いなァ〜」 惣右介についこの間言われたことと同じことを言われ、私は思わず笑みを零す。 「なんや、そんな顔もできるんかいな。自分もっと笑っとったほうがええで?」 『…考えておきます』 隊長の好きな音楽が流れ出したところで、私たちは仕事に取り掛かった。 『夜一さんお久しぶりです』 「優奈か、久しいのう」 その日の業務は午前で終わったので、私はニ番隊へと足を運んだ。 夜一さんはいつものように砕けた座り方で茶を手にしていた。 『平子隊長から夜一さんが呼んでいると聞いたので…』 「そうじゃそうじゃ、久しぶりに白哉坊のところにでも行こうかと思ってのう。優奈も久しく会っておらぬだろう?」 白哉坊というのは、四大貴族朽木家の次期当主の朽木白哉だ。 以前は夜一さんに連れられてよく屋敷に足を運んだものだが、役職があがるにつれてほとんど会わなくなっていた。 『そうですね。銀嶺殿には話を通してあるのですか?』 「もちろんじゃ。早速行くとするかのう。砕蜂、しばらく留守にするぞ」 「かしこまりました、夜一様」 私たちはニ番隊を出ると、瞬歩で朽木家へと向かった。 『梢綾…いや砕蜂は、随分と夜一さんのことを慕っているようですね』 「そうか、優奈は砕蜂を昔から知っておったな」 我が暁家と砕蜂の蜂家とは古くから付き合いがあった。 そのため、私も幼い頃から砕蜂を知っていたのだ。 「着いたぞ」 久しぶりの朽木家の屋敷は相変わらず大きくて、迎えてくれた銀嶺殿もお変わりなかった。 『銀嶺殿、お久しぶりです』 「久しぶりじゃな。そなたも副隊長になって、父上と母上もさぞかし喜んでおることじゃろう」 『はい…』 銀嶺殿と話をしていると、庭のほうから騒がしい声が聞こえた。 『白哉も相変わらず元気なようですね』 「そうじゃな。すぐに熱くなるところが抜ければよいのじゃが…」 夜一さんを追いかけまわす白哉を見ながら、私は銀嶺殿とお茶を飲みながら話をした。 prev//next back |