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「優奈、そういや夜一が呼んどったで?」



ある朝、詰所に行くと隊長に夜一さんが呼んでいたと伝えられた。
まだ両親が生きていた頃はよく遊び相手になって頂いた。
幸せだったあの頃を思わず思い出してしまう。



『そうですか。昼にでも伺います』

「それにしても、優奈があの暁家の姫君やったなんてなァ〜。総隊長の孫や聞いてたからびっくりしてもうたわ」



現世のジャズとかいう音楽のレコードをいじりながら、隊長は笑った。



『昔の話です。今はもう屋敷もありませんし…』



私たちが山じいの屋敷に移った後、暁家の屋敷を再建しようという話が持ち上がった。
しかし、再びあのような悪夢が襲うことを恐れて私はそれを拒否したのだ。



「ええやないか、妹さんは元気なんやろ?」

『はい、総隊長のところでお世話になっています』

「偉いべっぴんさんやっちゅう噂やで?」



鈴は滅多に屋敷から出ない。
山じいが可愛がり過ぎて箱入り娘となっているのだ。
それでも、たまに屋敷に訪れる隊長格を通して鈴の噂が広まっているようだ。



『いくら隊長とはいえ、鈴は渡しませんよ?』

「怖いなァ〜」



惣右介についこの間言われたことと同じことを言われ、私は思わず笑みを零す。



「なんや、そんな顔もできるんかいな。自分もっと笑っとったほうがええで?」

『…考えておきます』



隊長の好きな音楽が流れ出したところで、私たちは仕事に取り掛かった。



『夜一さんお久しぶりです』

「優奈か、久しいのう」



その日の業務は午前で終わったので、私はニ番隊へと足を運んだ。
夜一さんはいつものように砕けた座り方で茶を手にしていた。



『平子隊長から夜一さんが呼んでいると聞いたので…』

「そうじゃそうじゃ、久しぶりに白哉坊のところにでも行こうかと思ってのう。優奈も久しく会っておらぬだろう?」



白哉坊というのは、四大貴族朽木家の次期当主の朽木白哉だ。
以前は夜一さんに連れられてよく屋敷に足を運んだものだが、役職があがるにつれてほとんど会わなくなっていた。



『そうですね。銀嶺殿には話を通してあるのですか?』

「もちろんじゃ。早速行くとするかのう。砕蜂、しばらく留守にするぞ」

「かしこまりました、夜一様」



私たちはニ番隊を出ると、瞬歩で朽木家へと向かった。



『梢綾…いや砕蜂は、随分と夜一さんのことを慕っているようですね』

「そうか、優奈は砕蜂を昔から知っておったな」



我が暁家と砕蜂の蜂家とは古くから付き合いがあった。
そのため、私も幼い頃から砕蜂を知っていたのだ。



「着いたぞ」



久しぶりの朽木家の屋敷は相変わらず大きくて、迎えてくれた銀嶺殿もお変わりなかった。



『銀嶺殿、お久しぶりです』

「久しぶりじゃな。そなたも副隊長になって、父上と母上もさぞかし喜んでおることじゃろう」

『はい…』



銀嶺殿と話をしていると、庭のほうから騒がしい声が聞こえた。



『白哉も相変わらず元気なようですね』

「そうじゃな。すぐに熱くなるところが抜ければよいのじゃが…」



夜一さんを追いかけまわす白哉を見ながら、私は銀嶺殿とお茶を飲みながら話をした。

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