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今まで数え切れないほどに聞いてきた刀同士のぶつかり合う音。
しかし、今聞いているその音はこれまでのどんな音よりも重苦しかった。



『どうした、貴様の力はそんなものか?鏡花水月や崩玉とやらの力を借りなければ、貴様とて一介の死神にすぎない』

「君…らしいな…。それでも君に私は殺せないよ」



今や私の刀は惣右介の喉元に突きつけられていた。
あと少し、あと少し手を動かせばこの男は死ぬ。
それなのに、私は手を動かすことができなかった。



『何故…何故父上と母上を殺した?』

「そんなもの、君を手に入れるために決まっているじゃないか」



こんな状況でありながらも、目の前の男は余裕の笑みを浮かべる。
まるで私の心の内を知っているかのようだ。



「君は覚えていないだろう?ずっと昔、まだ霊術院に入る前に私と君は出会っていた。君の瞳はあの頃から真っ直ぐで、手に入れたいと思ったんだ」



今はこの男の言葉など聞きたくないと思った。
私から全てを奪ったこの男の言葉など、聞いてはいけないと。
それなのに刀を支える手は震え、熱いモノが込み上げてくる。



「霊術院に入って、君と私は友人になった。そして、卒業した後は同僚として私は誰よりも君に近い存在になれたと思っていた。それなのに君の傍にはいつも誰かがいた」

『それで平子達を…?』



確かに、あの頃私は平子達と共にいることが多かったように思う。
それならば、彼らが尸魂界を追われたのは私の所為ということか。



「ちょうど実験の材料を探していたところだったのでね。でも、やっと君を取り巻く連中を取り除けたと思ったら今度は君が居なくなりそうだった」



あの夜のことが思い起こされる。
私がこの男への想いに気づいた日だ。



「そして今、こうして再び君に会うことができた。皮肉なものだな、できれば君に会うのはもう少し後がよかった。私がこの世界を支配した後が」

『ふざけるな!』



私はたまらずに声を上げた。
この世界を支配する?そんなことできるはずがない。
させる気もない。



『私は、ただ穏やかな時を送りたかったのだ。父上がいて母上がいて…妹がいて。それを壊したのが貴様だ!』

「壊した?何を言っているんだ。私が何もしなくとも、暁家はああなっていなんだよ。君は知らなかったと思うけれど、君の家は四十六室によって滅ぼされるはずだった。尸魂界の脅威であるとしてね。君は不思議に思ったことはないかい?君に私の鏡花水月が効かないことを、そして君達姉妹があの事件の後すぐに運よく総隊長に引き取られることになったことを」



この男が何を言っているのかわからなかった。
私に鏡花水月が効かないのは単純に霊力の差だと思っていた。
総隊長に引き取られたのも、ただ運が良かっただけだと思っていた。



「全て、君が暁家の血を濃く引いている姫だからだよ」

『黙れ!私の所為であの事件が起きたというのか?』

「そう言っているつもりなのだけれどね」



カランと音を立ててかろうじて握っていた刀は地に落ちた。
その場に膝をついた私は、もはやどうしていいのかわからなかった。
その時、オレンジ色の髪をした死神が私と彼の間に入った。



「あんたが誰なのか知らねえけど、俺は藍染を倒さなきゃならねえんだ。邪魔するぜ」



そう言って、死神は惣右介に斬りかかった。
私は思わず力の入らない足を無理矢理に立たせて瞬歩を使った。



「あんた…何してんだ!?」

「優奈サン!?」



死神の声と、それまで黙っていたギンの声とが重なった。
そして、私は崩れ落ちた。

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