>> 2 「現世へ行ってみんかのう」 そんな私の様子を見た山じいは溜息混じりに言葉を発した。 大方、呆れているのだろう。 『ですから、私は…』 「お主ほどの力の持ち主をそう易々と辞めさせるわけにはいかぬ」 護廷十三隊の総隊長として、だろうか。 曲りなりにも一度は隊長へと上り詰めた身、そう簡単に手放すわけにもいかないのだろう。 「表向きには休隊ということにしておこう。辞めたいなどと言うのじゃから、何か理由があるのじゃろうて」 そう言った山じいの目は優しかった。 これは総隊長として、かそれとも私の親代わりとして、なのか。 「よいな、お主には一番隊の隊員として現世任務についてもらう」 異議は認めない、といったような口ぶりだった。 しかし、これも山じいの優しさなのかもしれないと思った。 それから一週間後、私は現世へと向かうことになった。 山じい…いや、隊長から下った任務は現世に駐在している死神では倒せない虚の退治。 しかし、そんな虚は滅多に出るはずもないので、事実上期限なしの休暇を与えられたようなものだった。 『世話になったな…』 出発の前日、ひっそりと静まり返った十番隊の隊首室に私はいた。 部屋の中には私一人。 副官にも次の隊長になるであろう者にも何も言わなかった。 それどころか、このことは誰も知らない。 ギンも…惣右介でさえも。 『これでよかったのだ』 口に出してみたのは自分に言い聞かせるため。 あの夜に彼らを止められなかったこと、それを今でも隠し続けていること、大きすぎる罪を背負った私には此処にいる資格がないのだ。 そして翌日の朝、私は鈴の眠るあの丘に行き、現世へと向かった。 prev//next back |