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夕飯の後、惣右介が持ってきてくれた酒を酌み交わす。
話題に上ったのは先日のギンとのことだった。



「ほう、ギンと酒を…」

『あの子も大人になったのだなと思ってな…』



親心、とでも言おうか。
嬉しいような悲しいような、複雑な心境だった。



「君はギンの母親のようなものだったからね」

『ならば、惣右介は父親か?』



惣右介がクスリと笑った。
今日の彼はいつもと違ってよく笑う。
私の前では滅多に笑わないのに。



「じゃあ、君と私は夫婦といったところかい?」



何を莫迦な…そう言いかけた時だった。
惣右介の手が私の頬に伸びてきて、そのまま顔を近づけられた。
気が付けば目の前には眼鏡を外した惣右介の端正な顔があった。



『惣…右介…何を…』



突然のことに動揺する私に、惣右介はなおも微笑む。



「君は…優奈は鈍いな。私はいつも君を見ていたというのに」



唇に何か触れたと思えば、それはすぐに離れた。
私たちは友人、そう思っていたのは私だけであったのだろうか。
頭が混乱する。



「“友人ではなかったのか”そう思っているのだろう?残念ながら、ただの友人であったならばあの時私は君を消していたよ、優奈…」



“あの時”そう言われて、あの忌々しい記憶が蘇る。
友人を奪われたあの夜のこと。
今でも消えないこの傷痕。
奪ったのは目の前のこの男。
それなのに、私は…



「私は君のことを少なくとも友人以上だと思っているよ、優奈」

『私は…』



気づいてはいけない想い、その想いに気づいた瞬間だった。


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