>> 1 「優奈さ〜ん、でね、ギンがね…」 全く、酒に強いのか弱いのか。 乱菊は私と酒を飲むと、決まってギンの話をする。 昔の話、今の話、とにかく楽しそうに私に話をしてくれる。 「聞いてます?」 『聞いておる。そろそろ帰らぬか?明日に響く』 口をとがらせる乱菊を他所に、代金を支払った私は足早に外に出る。 空を見上げると綺麗な月。 どうやら今日は満月のようだ。 「綺麗ですね、月」 『そうだな』 隊舎へ戻ろうとする乱菊に、先に帰っておいてくれと言うと、私はあの丘へと歩みを進めた。 「珍しいじゃない、優奈ちゃん」 どうやら先客が居たようだ。 派手な羽織に手には杯。 『京楽こそ、どうしたのだ?』 「なんだよ〜忘れちゃったのかい?」 今日は鈴の生まれた日。 京楽もこの鈴が命を落とした場所で、祝い酒でも楽しんでいたのであろう。 「一杯どう?」 『…いただこうか』 京楽と交わす酒が一杯で終わるはずもなく、空になった杯には次々と酒が注がれた。 「優奈ちゃん、僕思うんだけどさ…」 突然、京楽がしんみりとしたような顔つきになった。 「優奈ちゃんはもっと自由に生きていいと思うんだ」 『何の話だ』 「いや、これは独り言なんだけどね、僕も浮竹も山じいも、優奈ちゃんが何を抱えているのかわからない。でも、僕らにとっては優奈ちゃんはただの孫であり娘なんだ。暁家の者であるとか、隊長であるという前にね」 だから寂しいんだよ、と言い残して、京楽は立ちあがった。 私は何か言わなければと思ったが、その時にはもうその姿は消えていた。 『自由、か…』 自由とは一体何なのか。 私は今も自由に生きている。 自分でそう思っているだけなのか? あの…あの事件がやはり心のどこかに引っかかっているのであろうか。 ―にゃあ… 黒猫が寄ってきた。 何故だろう、懐かしい感じがした。 prev//next back |