>> 3 自室に戻ってからというもの、何をするわけでもなくただ縁側に座って庭を眺めていた。 ふと、部屋の中を見回すと、昔現世で買った寝台が目に入った。 確か、ベッドと言っただろうか。 『あの頃、か…』 急に目頭が熱くなる。 惣右介の言うように、 私はあの頃と何も変わっていないのかもしれない。 やはり、鈴が死んでから私の時計は止まったままなのだろうか。 ―コンコン― ドアをノックする音が聞こえて、私は玄関へと向かった。 覗き穴から見えたのは、意外な人物の姿だった。 「優奈サン、入ってもええ?」 その人物、ギンを招き入れて居間に通した。 お茶を出すと、彼は黙って口をつけた。 しばしの静寂の後、ギンは漸く口を開いた。 「ボクな、優奈サンのことホンマに大事に思っとる」 私は何も言わず、ギンを見ていた。 「せやからな、優奈サンがおらんようになるなんて嫌や」 その時のギンの顔は、まるで母親を引きとめる子供のようであった。 『何も、今すぐに此処を去るわけではない。私とて一隊を預かる隊長だ。隊士を路頭に迷わせることはできない』 私はギンの目を見て、強く、しかし努めて優しく言った。 ギンは納得したのか、その表情が幾分か柔らかくなった気がした。 「優奈サンの口からそう聞けて良かった。藍染隊長がそう言うても、なんや胡散臭いんやもん」 『惣右介はそういう奴だ』 二人の間に思わず笑いが零れた。 ひとしきり笑うと、ギンは昔のような笑顔に戻っていた。 『ギンは変わっていないな』 「そんなことないよ?ボクかてもう立派な大人やし」 自慢げに言うギンは、言葉の通り、もう立派な青年だ。 しかし、昔のような怖いくらいの純粋さを残している。 少なくとも、私にはそう思えた。 『そうか。それなら、酒でも飲むか?』 どこかに京楽から貰った酒があることを思い出し、私はそれを取り出してギンと空けることにした。 prev//next back |