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自室に戻ってからというもの、何をするわけでもなくただ縁側に座って庭を眺めていた。
ふと、部屋の中を見回すと、昔現世で買った寝台が目に入った。
確か、ベッドと言っただろうか。



『あの頃、か…』



急に目頭が熱くなる。
惣右介の言うように、
私はあの頃と何も変わっていないのかもしれない。
やはり、鈴が死んでから私の時計は止まったままなのだろうか。



―コンコン―



ドアをノックする音が聞こえて、私は玄関へと向かった。
覗き穴から見えたのは、意外な人物の姿だった。



「優奈サン、入ってもええ?」



その人物、ギンを招き入れて居間に通した。
お茶を出すと、彼は黙って口をつけた。
しばしの静寂の後、ギンは漸く口を開いた。



「ボクな、優奈サンのことホンマに大事に思っとる」



私は何も言わず、ギンを見ていた。



「せやからな、優奈サンがおらんようになるなんて嫌や」



その時のギンの顔は、まるで母親を引きとめる子供のようであった。



『何も、今すぐに此処を去るわけではない。私とて一隊を預かる隊長だ。隊士を路頭に迷わせることはできない』



私はギンの目を見て、強く、しかし努めて優しく言った。
ギンは納得したのか、その表情が幾分か柔らかくなった気がした。



「優奈サンの口からそう聞けて良かった。藍染隊長がそう言うても、なんや胡散臭いんやもん」

『惣右介はそういう奴だ』



二人の間に思わず笑いが零れた。
ひとしきり笑うと、ギンは昔のような笑顔に戻っていた。



『ギンは変わっていないな』

「そんなことないよ?ボクかてもう立派な大人やし」



自慢げに言うギンは、言葉の通り、もう立派な青年だ。
しかし、昔のような怖いくらいの純粋さを残している。
少なくとも、私にはそう思えた。



『そうか。それなら、酒でも飲むか?』



どこかに京楽から貰った酒があることを思い出し、私はそれを取り出してギンと空けることにした。



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