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「優奈ちゃんと鈴ちゃんか、可愛いなあ〜。それにしても、山じいに隠し子が居たなんて知らなかったよ」

『山じいっておじいちゃんのことか?』



派手な羽織の男に聞くと、そうだよと言った。
隠し子…ではないのだが。



『隠し子じゃない』

「そうさ、京楽。この子たちの名前聞いただろ?暁家の子だよ」

「暁家って…あの?」



”あの”という言葉が意味するのは、きっと襲撃された事件のことだろう。
上級貴族の暁家が襲撃され、幼い二人の娘だけが生き残った。
しかし、不思議なことに暁家の者だけでなく、襲撃した者たちまでもがそこで息絶えていた。
一体誰が侵入者を始末したのかは不明。



『ああ…父様も母様も死んだ。屋敷も燃えた。行くところがなくて流魂街に出ようとしたら、おじいちゃんが拾ってくれた』

「そうか…先生も君たちのことを放っておけなかったんだな!」

「僕には、山じいがこの子たちを自分の孫にしたかっただけだと思えるんだけど…」



どうやら、この二人も悪い人ではないらしい。
それから二人は私たちにいろいろな話をしてくれた。
死神という仕事のこと、爺さんが偉い人だということ。
小さい頃から屋敷の中で育ってきた私たちには、どれも初めて聞く話だった。



『死神って楽しそう…』



ぽつりと呟くと、京楽さんが頭を撫でた。



「優奈ちゃんには霊力があるから、死神になれるよ。でも…死神だっていいことばかりじゃないんだ…」



そう言った京楽さんの顔はどこか寂しそうだった。
それからというもの、二人は頻繁に屋敷にやってきた。
いつも面白い話をしてくれて、私に稽古もつけてくれた。
霊力のない妹は、稽古をしている私たちを楽しそうに見ていた。
幸せだった。
家族を一度失ったのに、また新しい家族ができたみたいだった。



「死神になりたい?」

『ああ。私も山じいや京楽さんたちみたいな死神になりたい』

「じゃが…」



私たちがこの屋敷に来て何年経っただろうか。
幼かった私たちも背が伸び大きくなった。
私は、山じいに死神になりたいと伝えた。
そうそう、爺さんのことを山じいと呼び始めたのはいつからだろうか。
京楽さんの呼び方が移ったらしい。



『駄目?』

「仕方がないの。霊術院には儂から話を通しておこう」



こうして私は春から霊術院に通うことになった。
まだ寒い年の暮れのことだった。



「優奈、剣はこうやって振るのじゃ」

『はい!』



霊術院への入学が決まってからというもの、山じいも私に稽古をつけてくれるようになった。
さすが、総隊長だけあって強い。
それまでも稽古はしていたが、この時の私の力なんて足元にも及ばなかった。



「姉様、お疲れ様」

『すまぬな』



鈴はいつも私の稽古を見ていた。
霊力がないので鈴は死神にはなれない。
その分、私のことを応援してくれているようだった。



「がんばっておじいちゃんみたいに強い死神になってね!」



私が死神になりたいと思った理由、それはほかでもないこの妹のためだ。
唯一の私の肉親である妹を自らの手で守るため、私は強くなろうと誓った。


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