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次の日、いつものように隊首室で業務をこなしているとドアをノックする音が聞こえた。



『入れ』



扉が開かれて入ってきたのは、昨日の少年だった。



『どうしたのだ、まだ昼であろう?』

「今日は授業が早く終わったんです。少し早いかな思いましたけど来てまいました」



申し訳なさそうに言う少年にソファでしばらく待つように言うと、私は急いで書類を片付けた。



「暁隊長、よろしいですか」



半刻ほどしてまた隊首室に人が来た。
珍しいこともあるものだ。
普段は人の寄り付かないこの部屋に一日にニ度も客人が来るなど。



『惣右介か、入れ』

「失礼します」

『どうしたのだ、書類か?』

「いえ、特に用事があるわけではないのですが…こちらは?」



惣右介がソファに座る少年に気づいた。
その表情は驚きに満ちていて、何故ここに子供がとでも言いたげだ。



『霊術院の学生だ。山じいに頼まれて稽古をつけることになった』

「…珍しいこともあるものですね」

『そうだな。ところで惣右介、その言葉づかいはやめてはくれぬか?隊長と呼ばれるのも好かぬ』



悪かったねと笑う惣右介は、その少年の向かいに座った。
少年は惣右介を相変わらず表情の読めない笑顔で見ている。



「名は何というんだい?」

「市丸ギンです」

「そうか…優奈が見込んだのだから、かなりの腕前なのだろうね」



その後、惣右介は勝手知ったような様子で少年に茶を入れ、丁寧に茶菓子まで出していた。



「お兄さんは隊長さんの副官なん?」



惣右介に渡された茶菓子をほおばりながら少年が問う。
惣右介は思わず声を上げて笑う。



「ははっ僕は五番隊の副官だよ。優奈は副官を置いてないんだ」



ちなみに僕の名前は藍染だよと付け足すと、惣右介も茶菓子に手を伸ばした。
少年はふうんと言うと、私のほうを見た。



「なァ隊長さん、ボクも隊長って呼んだらあかんの?」



少年の問いに驚く。
たしかに隊長と呼ばれるのは好きではないが、この子供に他に何と呼べと言えばよいのだろうか。



『…好きに呼ぶがよい』

「じゃあ優奈サンって呼んでもええ?ボクんことはギンって呼んでや」



少年は今までの表情とは違い、子供らしい笑顔を浮かべた。
その様子はまるで幼いころの鈴を見ているようで、心の奥がチクリと痛んだ。



『ギン、行くぞ』



その日の業務を片付けた私は修行場へと向かう。
惣右介にもついて来るかと問えば頷いたので、私たちは三人で向かった。



「隊長が子供連れて歩いてるぞ!」

「ああ、あれが昨日言ってた…」

「藍染副隊長も一緒かよ、随分とすげえ子なんだろうな…」



隊士たちがなにやら言っているのが耳に入ったが、聞こえないふりをした。



「優奈サンって凄い人なんやろ?」

『そのようなことはない』

「だって、先生たちも言うてたよ?暁隊長に稽古してもらえるやなんてありがたく思えって」

『買被りすぎであろう…』


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